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僕には血の繋がりのない従姉妹がいます。
従姉妹の名をA。産みの母親に寒い冬の中、独り置いていかれて孤児になってしまった、愛おしい従姉妹です。
最初に出会った時、Aはまだ幼子でした。
背景に溶け込むように、繁華街の脇に置いてあるベンチにちょこんと座っていたんです。
ねぇ、きみひとりなの?そう話しかける僕に、Aはこくん、と頷きました。
お母さんを待っている。お父さんには会ったことがないからよく分からない。
まだ小さい口をゆっくり動かして拙い口調で説明するAの瞳は、不安で揺れていました。
どれくらいの時間その場にいたのか、まだ時計を読むことができないであろうAに聞く必要はありませんでした。
その小さな柔い指先は、青紫色や赤紫色に変色していたんです。
それじゃあ僕と一緒に待っていよう?Aの隣に腰掛けた僕は、目の前の幼子を笑わせることに必死でした。
ちょっとでも笑ってくれるなら、自虐的な話でもいくらでもできました。
コロコロと鈴の音を転がすように笑うAは、次第に年相応の表情を見せてくれました。
時折、不安そうに遠くを眺めても、ふわふわと降ってくる雪を見て目を輝かせるんです。
きっと僕は、薄々勘づいていた事から逃げたかったんだと思います。今の自分じゃ、この子に何もしてあげられない、と悟っていたんでしょう。
だから、Aを交番に届けた時は無力感で胸がいっぱいになりました。
ごめん、ごめんね。僕はきみにこれくらいのことしか出来ない、救えなくてごめんね。
まだ何も知らない純粋無垢なAは、交番へ連れて行っても不思議な顔をするだけでした。
母に捨てられたのだと、気づきませんでした。
どうしてもAのその後が気になった僕は、児童養護施設で生活していると警官から聞いて、すぐさまメモした住所に駆けました。
あんなに必死こいて走ったことは、後にも先にもなかった…いいえ、後にもう1回だけあります。ただただAが笑顔でいるかが心配で、体力があまり無いにも関わらず走りました。
やっと着いた児童養護施設を覗くと、Aは確かにそこにいて
───死んだように息をする人形と成り果てていました。
もしもこの世に神様がいるのだとすれば、何を守り、何を救おうとするんでしょうか。
Aには救いがありませんでした。
いいや、誰かに見つけてもらう恵みはあったのかも知れませんが、それは決してAの救いではなかったんです。
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なしつぶて(プロフ) - 名無しさん» 名無し様はじめまして、コメントありがとうございます。主催の片割れのなしつぶてと申します。今作品を楽しみ、テーマの根幹や凝ったところにお気づきいただけたこととても感激です、ありがとうございます! ぜひ何度も楽しんでください(๑╹◡╹) (2021年12月30日 23時) (レス) id: 2923115121 (このIDを非表示/違反報告)
名無し - ネットの広い海の中、こうしてこのような素敵な企画、小説と出逢えたこと、本当に嬉しく思います。ずっと読み返します…!ありがとうございました!(長いこと失礼しました…) (2021年12月26日 21時) (レス) id: 0ca626f097 (このIDを非表示/違反報告)
名無し - タイトルとストーリーの繋がり、Q編からの考察など読み終わった後にもこうして楽しむことができる…企画の制度も面白いですし今までにない形ですごく興味をひかれました。 (2021年12月26日 21時) (レス) id: 0ca626f097 (このIDを非表示/違反報告)
名無し - 正解はひとつではないし正解ですらないのかもしれない、と不思議な発見を突きつけられました。未だすごく深く自分の胸元に刺さっています。それはもう、余興だけでも鳥肌が立つ程に。 (2021年12月26日 21時) (レス) id: 0ca626f097 (このIDを非表示/違反報告)
名無し - 1週間、このA編を心待ちにさせていただいていた読者のひとりです。素晴らしい企画と物語、本当にありがとうございました…!作り込まれた世界観と作者様方の綺麗な表現法、QuestionとAnswerが溶け合って混ざり合っていく様で、 (2021年12月26日 21時) (レス) id: 0ca626f097 (このIDを非表示/違反報告)
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