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────すみません、お忘れ物です
────すみません、ありがとうございます。
────彼女になんか、なってみたい。
────彼の中の一番になったも同然。
私がいつの日か夢で見た事だらけ。バッと頭の中にそれらが流れ込んできて、あの日の出来事が全て自分に都合のいい夢なのでは無いかと思ってしまえる程に、夢はあまりにも上手く出来ていた。
あの日に起こった状況も、彼から出る言葉も途中までは全く一緒。
──────だってセンラさんの方から連絡先を交換しようと言ったのだから。ほぼ好きと言っているようなものでしょう?
──────気持ちいい。
──────あはっ、……はははっ。
『今日、推しが店に来たぁ〜!皆は気が付かなかったけど、私だけは知ってたよっ!だって会いに来てくれるって連絡してたもんね。また待ってるよぉ〜』
──────火あぶりだって構わない、どこまでも掻き乱して。私とセンラさんの仲を広めてよ。
──────だって、カノジョだよ??私。
──────ほらほらほら。もっとみて。
『うわ、出たよまた鎖座波@ラ』
『妄想も大概にしろって感じ』
『典型的な痛い女で草』
罵詈雑言で埋め尽くされた視界に息苦しくなって目が覚めてあの日は酷く汗をかいていた。途中までが幸せな夢でしか無かったのに、最後に私は狂ってしまって目が覚めた。
全てもしも私が一歩道を踏み外していれば有り得たかもしれない世界だ。もしもの事があれば、夢の中のようになっていたのかもしれない。いや、もしかしたらあちらはあちらで現実なのかも────と、埒の明かない思考回路がグルグルととぐろを巻き始めた所で首を振る。
少し彼より早く起きた休日。私は今この時が現実である事を確かめるように、左手の薬指に収まっている小さなダイヤをなぞり、胸元に幾つも散りばめられている小さな赤い花の様な痕を視界に入れる。
「…ふふ、センラさん、ぐっすり眠ってる。可愛い」
「……んん…………」
ぐるりと寝返りを打ったかと思えば、その腕は私の方に伸びてきて、気付けばすっぽりと彼の胸の中に私は小さく収まっていた。
あんなバッドエンドなんて死んでも辿りたく無い。
今のこの幸せを噛み締める様にして、私は厚いその胸元に頬を擦り寄せる。
私達を祝福してくれない人間がいるのなら、きっとそれはただのセンラー。最初で最後の『匂わせ』とやらをTwitterでつぶやく。
『大好きな人と、結ばれました!』
いつかきっと、これがもっと大勢の人に受け入れられることを願って。
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なしつぶて(プロフ) - 名無しさん» 名無し様はじめまして、コメントありがとうございます。主催の片割れのなしつぶてと申します。今作品を楽しみ、テーマの根幹や凝ったところにお気づきいただけたこととても感激です、ありがとうございます! ぜひ何度も楽しんでください(๑╹◡╹) (2021年12月30日 23時) (レス) id: 2923115121 (このIDを非表示/違反報告)
名無し - ネットの広い海の中、こうしてこのような素敵な企画、小説と出逢えたこと、本当に嬉しく思います。ずっと読み返します…!ありがとうございました!(長いこと失礼しました…) (2021年12月26日 21時) (レス) id: 0ca626f097 (このIDを非表示/違反報告)
名無し - タイトルとストーリーの繋がり、Q編からの考察など読み終わった後にもこうして楽しむことができる…企画の制度も面白いですし今までにない形ですごく興味をひかれました。 (2021年12月26日 21時) (レス) id: 0ca626f097 (このIDを非表示/違反報告)
名無し - 正解はひとつではないし正解ですらないのかもしれない、と不思議な発見を突きつけられました。未だすごく深く自分の胸元に刺さっています。それはもう、余興だけでも鳥肌が立つ程に。 (2021年12月26日 21時) (レス) id: 0ca626f097 (このIDを非表示/違反報告)
名無し - 1週間、このA編を心待ちにさせていただいていた読者のひとりです。素晴らしい企画と物語、本当にありがとうございました…!作り込まれた世界観と作者様方の綺麗な表現法、QuestionとAnswerが溶け合って混ざり合っていく様で、 (2021年12月26日 21時) (レス) id: 0ca626f097 (このIDを非表示/違反報告)
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