Ａとログとエピローグ【歌い手】

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***


　崩落が自分を押し流す中で坂田は願った。

　どうかAの命が助かりますように。
　俺の命が助かりますように。
　記憶を失ったAを愛することができたのは、記憶を失ったAにも俺は恋をしていたからだ。彼女の瞳に。意志に。その心に。出会うたびに恋をしていた。


　運命の渦に翻弄される中で。
　俺は彼女と、何度も運命を繰り返していた。

　――――それでも、もし願いが叶うなら。
　残り二つのチャンスが光るなら。

　何度でも死にかえても俺を思い出したいと言ってくれたAと、俺はもう一度出会いたい。


***


　潮風と瓦礫に叩かれながらAは祈った。

　坂田さんの、――優の命が、助かりますように。
　優のことを私が覚えていますように。
　何度も何度も失ったことに気がつかず歩いていた私の側にいてくれた。私が落としたものを拾って、全部全部、大事に抱きしめてくれた。


　記憶の喪失に怯えて泣きじゃくる中で。
　それでも私は、確かに貴方に愛されていた。

　――――もし優が私を忘れても、私はあなたと恋をするけれど。それでももしも、許されるなら。

　ずっと私の側に居続けてくれた坂田さんのことを、優のことを、忘れないままでいたい。


***


　眩しい光が眼前に広がっていた。痛いほどだった。じくじくと滲む生理的な涙に瞬きを繰り返して、……………急に体が重く水に包まれる。ばしゃりと俺の手に合わせて服の袖から大量の水が飛び散る。気管に水が入り、激しく咽せた俺の背中を、



　必死に摩り、『優！』と。
　呼びかける人があった。


「？！っ？、！ …ごほ、ごぼっ、……がはっ、…………ぁ、A、？」

『っ優！、！ よかった、よかった、、、わたし生きてるよ、覚えてるよ、思い出したよあなたのこと、』

　呆然とする俺の前で。
　Aがぼろぼろと泣いている。

『私も紫苑に会った、……………はじめて。ちゃんと思い出して、はじめて。やっと会えたねって、思い出してくれてありがとう、って、わらってた、』

『二人が覚えてくれたから。二つ分のチャンスを、一人一人に、使うって 私の祈りと、優の願いと、一つずつ、使うって、っ、だから、』

「…………っ、だから、」


　失い続けることを自覚して。
　はじめて、きちんと出会えた。

　いくつもの死を繰り返して。いくつもの忘却を繰り返して。その喪失に出会うことで。

　俺達は、確かにここに生きる理由を見たのだった。



『思い出す君と、また出会う僕達。』了

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