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「…行っちゃったか」
僕が帰ってきた時、部屋にはAの姿は見えずもぬけの殻だった。
争った形跡は全くない。きっとAは彼女が言っていたあの人魚の元へ行ってしまったのだろうと何とも他人事にそう思った。
正直あまり驚かなかった。いつかはこうなる気がしていたから。
____人魚姫は、人間になる代わりに自らの声を魔女に差し出したというのは有名な話だ。
もしかしたらAはあの童話にでてくる人魚姫だったのではないか。声を出せない代わりにこの陸へとやって来た、あちらの世界の住人。
だからAの話していたあの人魚もAを迎えに来て、彼と一緒に元の世界へと帰って行っただけのことなのかもしれない。
でも、それでいいと思った。Aは結婚の意思は無かったとはいえ、小さな頃から共に過ごした妹のように大切な存在であることに代わりはなかったけれど、そんな彼女が元いた場所である海が恋しくなったのなら、そこに帰ることで彼女が幸せなら、あんなふざけた計画書より何百倍も幸せな人生を過ごせることと思う。
人生計画書から大きく逸れた道を進んだAは今とても幸せだ。そしてそれは
「ねぇ、これでもう分かったでしょ?あんなので人の100%の幸せを導き出すことはできないって。
僕の今の状況は計画書には書いてなかったけど、でも僕の表情を見てよ、すごく清々しいでしょ?確かに僕は幸せだよ。僕の幸せは僕にしか分からないんだから。他の人だってそう、その人の幸せを誰かが決めるだなんて烏滸がましいにも程があるんだよ。
…はは、ひどい顔」
"ざまぁみろ"
僕の背後に向けられた、震えた銃口に向かって口角をあげてみせた。
fin.
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なしつぶて(プロフ) - 名無しさん» 名無し様はじめまして、コメントありがとうございます。主催の片割れのなしつぶてと申します。今作品を楽しみ、テーマの根幹や凝ったところにお気づきいただけたこととても感激です、ありがとうございます! ぜひ何度も楽しんでください(๑╹◡╹) (2021年12月30日 23時) (レス) id: 2923115121 (このIDを非表示/違反報告)
名無し - ネットの広い海の中、こうしてこのような素敵な企画、小説と出逢えたこと、本当に嬉しく思います。ずっと読み返します…!ありがとうございました!(長いこと失礼しました…) (2021年12月26日 21時) (レス) id: 0ca626f097 (このIDを非表示/違反報告)
名無し - タイトルとストーリーの繋がり、Q編からの考察など読み終わった後にもこうして楽しむことができる…企画の制度も面白いですし今までにない形ですごく興味をひかれました。 (2021年12月26日 21時) (レス) id: 0ca626f097 (このIDを非表示/違反報告)
名無し - 正解はひとつではないし正解ですらないのかもしれない、と不思議な発見を突きつけられました。未だすごく深く自分の胸元に刺さっています。それはもう、余興だけでも鳥肌が立つ程に。 (2021年12月26日 21時) (レス) id: 0ca626f097 (このIDを非表示/違反報告)
名無し - 1週間、このA編を心待ちにさせていただいていた読者のひとりです。素晴らしい企画と物語、本当にありがとうございました…!作り込まれた世界観と作者様方の綺麗な表現法、QuestionとAnswerが溶け合って混ざり合っていく様で、 (2021年12月26日 21時) (レス) id: 0ca626f097 (このIDを非表示/違反報告)
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