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「……な、……名前?」
彼の言葉に、思わずおうむ返しをするように聞き返す。
あまりにも気の抜けるようなお願いだ。
「で、……ですが中原幹部は幹部で……」
「いい。そういう上下は気にするな。俺はとにかく、手前に中也、って呼んでほしいんだ」
「け、けど……」
彼が気にしなくていい、と首を横に振っていても部下である手前気になるものは気になってしまう。
彼は私よりも幾つか年上で、なによりも中原幹部が率いる部隊に属する部下なのだから。
その上、特別これといった親しい仲にあるわけでもない一介の構成員が中也、と上司の名前を呼び捨てで呼ぶのはとても気がひけた。
口ごもっていると、彼は私の意図を組んでくれたのか「じゃァこうしよう」と、ぴん、と指を立てて私を見た。
「最初は中也幹部でいい。ただ、慣れてきたら少しづつでいい。少しづつでいいから、中也って呼んでくれ。……これが一つ目の、俺のお願いだ」
お願い。
その言葉は、すなわち私の「否定」という道をふさいでくるもの。
中原幹部に、眉をさげて少しひかえめにお願いされてしまえば、縦に頷き二つ返事するしか道は残されていなかった。
「……わかりました。なか……中也幹部」
中原幹部。
癖になってしまっている言葉を新しい言葉で押し付けて、「中也幹部」と上書きをした。
しぶしぶ、中也幹部のお名前を呼べば目の前の人はうれしそうに笑っている。
けれど、私は彼の願いには少しだけ違和感をおぼえていた。
「う、うーん……。でも、名前で呼ぶなんてお願いでよかったんですか?ほかにもっと幾らでも……。ほら、例えばお金くれとか……」
マフィア幹部がいうには、随分と平和であっさりしたお願いに内心思っていたことをたずねてしまった。
すると彼は、呆れたようすで笑いを浮かべる。
むに、と先ほどのようにほっぺたを中也幹部の両手でつつまれると、
「あのなァ……。俺はそれでいいんだ。いや、それがいい。手前に名前を呼ばれたい」
なんて、いつもの威厳はどこへいったのか少年のような笑みを浮かべていた。
負けをしらない凛とした瞳は穏やかに細められ、私たちの前に立って指揮を送る口もとはくしゃりと優しく形をかえる。
……見たことがない、彼の一面に少しだけ心臓がきゅん、と苦しくなったのはここだけの秘密。
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橘スミレ(プロフ) - やった〜!!更新ありがとうございます!!デートだぁ! (4月7日 23時) (レス) @page10 id: 4832f2335e (このIDを非表示/違反報告)
狐の鈴 - この題名で小説を読んだ私は間違いなく変態だ (11月14日 2時) (レス) @page9 id: 194b92769c (このIDを非表示/違反報告)
瑠宇@鈴蘭 - チュウヤのぱんつみたい((((((変態が (7月26日 15時) (レス) @page5 id: f169115c31 (このIDを非表示/違反報告)
橘スミレ(プロフ) - 中也の尊さが爆発してます!好きです! (7月12日 0時) (レス) @page9 id: 4832f2335e (このIDを非表示/違反報告)
しゅわ。(プロフ) - ツバキ*さん» わわっ、二度目のコメントありがとうございます🙌私もそういって頂けて本当に嬉しいです💕基本、気が赴くままの更新ですけれどなるべく頑張って更新しますね💪応援ありがとうございます、頑張ります🙇💕 (6月2日 13時) (レス) id: 546937f9a7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しゅわ。 | 作成日時:2023年4月26日 18時