美しき人の名は太宰。【文スト】

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過去の私への悪態は後で思う存分吐くとして、取り敢えず、今はただ桜を横目にお酒を飲むことに意識を向けなければ。
そうでもなければやってられないかな。うん。やってられないんだよね。どうして両隣間で意味のわからない殺気が飛び交っているのか。
そんな易々と本気の殺気をだしてどうするのかなぁ……？
本職の殺気を浴びた小さい女の子が一瞬きょとんとしてから泣いて走っていったよね？可哀想に……きっとトラウマになった事だろうな。

あ、もしかしてだけどこれら全て私に向けられてるのかなぁ。
まあ、そうだとしたら悲しいけどなんとか合点が行くね。うん。それだけの事はやってきたし芥川君に関してはほぼ虐 待みたいな教育をしてたからね…。そうしなきゃ彼はあの組織の中で生き残れなかったとは言え、彼からしたら私に対する恨みは募っているはずで、まあ妥当かな。
妥当妥当。こんなもので済むのなら大安上がりといったものかな。

「それにしても、……桜は綺麗だねえ」

はらりはらりと落ち行く花弁は矢張り美しく目を見張るものがある。
綺麗とか、美しいとか、そう言ったありふれた感想しか出てこないのが痛いけれども、それでも、なにか物事の理を超越した美しさを持ち合わせているように感じる。
生きていて良かった、とまでは思わないけれど、この愉快な愛しい知人達とこの光景が共有出来たのがとても嬉しい。

先に逝ってしまった彼も、この光景を、空の高いところから見れているといいなぁ。

「太宰、乾杯だ。お前も杯を持て」

「………はぁい」

国木田君にうながされ、杯を取る。

乾杯の音頭を取るのは……おや、驚いた。森さんと社長、2人でか。まあ、そうなるよね。

「ふふ、…」

今でしか出来ないし拝めない光景。軍警何かに見つかったら事情聴取なんかじゃ済まないだろうに。面白いよね。
森さんがにこにこしてるのに対する社長の真顔が面白い。ブレないね。

「それでは森殿、乾杯を」
「その前にこの美しい桜でひとつ詠まれては如何です？」
「そう言うものは貴殿の領分ではあるまいか？」
「おや、そうですかねぇ」

ふはりと愉しげに笑う森さんに、ため息で返す社長は矢張り何処か息の合った掛け合いで愉快な気分になっていく。


ちらりと視界の端に過ぎった黒髪の、その艶めきが、妙に懐かしくて。赤いヒールを鳴らして歩くその人を目で追っていたらいつの間にか乾杯はなされていたらしい。

私とした事が迂闊だったかな。

ーー
続きます！

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