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vanish01 ページ24

side 侑李



「私も、侑李が好き。」


あれからどれだけの時間が経ったのか分からない。
時空管理委員会が紙一重に気づいてから修正するまでの時間はそんなにかからない。
それは監視部に居た僕が一番よく知っている。



「ありがとう。」



気付けば外は雨が降り出していた。
暗くなっている外の様子を見ては、僕は微笑む。
……いや、微笑んでいるつもりだった。


窓に映った僕はひどく不安で怯えた表情をしていて。
それが迷いだってことは気づいていた。
だけどもう決めたんだ、迷いはしないって。


それなのにどうして僕はこんな表情をしているのだろう。




「……。」

「わ、外……すごい雨だね。」



Aは窓に駆け寄り、外を見る。
僕はそっと彼女の腕を掴んだ。


「……え?」



不思議そうにAは僕の方を振り返った。
それだけで僕は安心してしまう。
彼女がまだ手の届く所にいるという安堵が、今の僕の支えだった。



「どこにも、行かないで。」



酷く消え入りそうな声と、不安で今にも涙が溢れそうな感情。
外の雨のように大粒の涙を流せたら、どれだけ楽になれるのだろう。



「………侑李。」

「何?」



Aはそっと僕の腕を掴んで、引き離した。
そしてこちらに向き直り、笑う。
彼女の背後の窓には叩きつけるような雨が降っていて、窓ガラスを酷く汚していた。



窓を開けてしまえば、大量の雨粒が室内に入り込んで来て、そのままAを連れ去ってしまいそうで怖かった。
僕は咄嗟にカーテンを閉める。



過去にどれだけ逃げようとも、やっぱり雨は怖い。




「私、行かなきゃ。どうしても行かなきゃいけないの。」


いつになく真剣な表情で真っ直ぐに僕を見つめる目。
その目はいつも綺麗で、澄んでいて。
それでいて僕の知らない輝きを纏っている。



だけどもう二度と開かれることのないその目を、僕はあの日だけは恐ろしく感じた。
いつもは綺麗だと思っていたものを、初めて恐れた。
怖くて怖くて、本当に仕方なかった。



「欲しいものがあるなら、僕が行くから。」

「それは無理だよ。侑李じゃ私の欲しいものを手に入れられない。」



頭が真っ白になって言葉を失った。
彼女の拒絶なのだろうか。
それとも僕に恨みがあるのだろうか。



しかし彼女は僕の心を見透かしたようにその答えを言った。




「私が欲しいのは、大好きな侑李の未来なんだよ。」

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天凪(プロフ) - 千種さん» こちらこそ遅くなってしまい申し訳ございません…!素敵なご感想ありがとうございます(*^^*)嬉しすぎるメッセージのおかげで元気が出ます♪これからクライマックスまで温かい応援よろしくお願いします(〃'▽'〃) (2017年5月15日 17時) (レス) id: a99f998358 (このIDを非表示/違反報告)
千種 - 遅くなってしまいましたが、移行おめでとうございます!大好きすぎるこの作品。いつもドキドキ、ワクワクさせてもらっています(*´▽`*)これからの展開、楽しみにしています!頑張って下さい! (2017年5月13日 18時) (レス) id: cd7a5815e3 (このIDを非表示/違反報告)
天凪(プロフ) - NMダイキング担さん» いつも温かい応援ありがとうございます!嬉しすぎるコメントにいつも元気をもらってます(*^▽^*)是非是非ラストまでお付き合いください!これからも更新頑張ります! (2017年5月6日 15時) (レス) id: a99f998358 (このIDを非表示/違反報告)
NMダイキング担 - 移行おめでとうございます!天凪さんの作品、大好きです!!これからも頑張ってください! (2017年5月6日 0時) (レス) id: 238f9174c4 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:天凪 | 作者ホームページ:http  
作成日時:2017年5月5日 23時

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