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ephemeral03 ページ17

「……余計なお世話だって。」


壁に掛けられた制服の腕章が目に入る。
『監視部』と書かれた赤い僕の誇り。
だけど、この瞬間だけはその誇りを捨ててもいいと思えた。


一体何を考えているのだろう、と自分が馬鹿馬鹿しく思えた。
だけど、このチャンスを逃したらもう二度と彼女は帰ってこないままだ。


いや、それでいい。
正しい過去は、勝手に変えちゃいけない。
何年もかけて、ライバルを蹴落としながら這い上がった時空管理委員会のその席を掴んだ自分はどうなる?
監視部の椅子を掛けて必死に戦ったあの頃の自分を裏切ることになる。


嫌だ、僕はどんなに辛い事でも耐えてきたつもりだ。
たくさんのライバルを踏み台にして必死に戦って掴んだ場所だ。
それを自分の私利私欲のために失ってたまるか。



自分に言い聞かせて何度も何度も躊躇した。
幾度となく繰り返される任務に、僕は馬鹿馬鹿しいといつも高圧的な態度を取っていたかもしれない。
だけど今ならラプラスがどんな気持ちだったのか、言われなくても分かる。



自分の為だと後ろ指をさされても、守りたい『失ったもの』があるから。
彼らは『失ったもの』を取り戻すために、そのためにリスクを冒してでも過去に手を伸ばした。


それは決して褒められた行為なんかじゃない。
だけど守るべきものを守る姿勢そのものは、きっと称賛の対象になるに違いない。



そして僕も彼らと同じように、後ろ指をさされても守りたいものがあった。
それは一度失ってしまえば、もう二度と手に入らない儚くて、だけど強い僕の宝物。



ブクブクとたくさんの泡沫が、思い出が消えていこうとも僕は君と同じ海の底に沈もう。
君が居れば深い海の底も怖くない。



「何か買ってこようか?」




……後悔はもう二度としないと決めた。
もしこれで僕がどうなろうとも、後悔は絶対にしない。
その為なら僕は、今まで培ってきた『過去』を捨ててもいい。



ごめんね、過去の僕。
必死に頑張っていたあの頃の僕には知られたくない。





僕はそっと、過去に手を伸ばした。






「ううん、大丈夫だよ。」

「いいからいいから!任せてよ。私もちょうど買いたいものあったし。」



Aは立ち上がった。
だから僕も、同じように立ち上がる。


もう、離さないって決めたから。




「それよりも頼まれ事してくれないかな?」

「別にいいけど……あっ!料理は駄目だよ!私そんなに上手じゃないし、練習中というか…その…」

「違うよ。」

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天凪(プロフ) - 千種さん» こちらこそ遅くなってしまい申し訳ございません…!素敵なご感想ありがとうございます(*^^*)嬉しすぎるメッセージのおかげで元気が出ます♪これからクライマックスまで温かい応援よろしくお願いします(〃'▽'〃) (2017年5月15日 17時) (レス) id: a99f998358 (このIDを非表示/違反報告)
千種 - 遅くなってしまいましたが、移行おめでとうございます!大好きすぎるこの作品。いつもドキドキ、ワクワクさせてもらっています(*´▽`*)これからの展開、楽しみにしています!頑張って下さい! (2017年5月13日 18時) (レス) id: cd7a5815e3 (このIDを非表示/違反報告)
天凪(プロフ) - NMダイキング担さん» いつも温かい応援ありがとうございます!嬉しすぎるコメントにいつも元気をもらってます(*^▽^*)是非是非ラストまでお付き合いください!これからも更新頑張ります! (2017年5月6日 15時) (レス) id: a99f998358 (このIDを非表示/違反報告)
NMダイキング担 - 移行おめでとうございます!天凪さんの作品、大好きです!!これからも頑張ってください! (2017年5月6日 0時) (レス) id: 238f9174c4 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:天凪 | 作者ホームページ:http  
作成日時:2017年5月5日 23時

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