許して、放して、助けて ページ40
そらるside
「…まだ、起きないんですか。幸助さん」
思わず目をそむけたくなるような状態で目を閉じたままの彼に、俺は虚しく声をかけた。
当然誰かが答えてくれるわけないけど、それでも吠えないと気が済まない。
「……まだ、Aさんを放してあげられないんですか。」
もう二年も経っているのに。
俺は幸助さんを見下ろしたまま、ぐっと唇を噛んだ。
なんで。
幾度となく問いかけてきた言葉を、再び怒りと無力感と一緒に吐き出す。
こうでもしないと、狂ってしまいそうだ。
あいつは、まふまふは、二年も。二年間もこの病院に通ってる。
Aさんが目を覚ます時を、二年も待ってる。
きっと今日も、一人でAさんに会いに行ってる。
『みてみてA、黒髪!!どう?かっこよくない?珍しいでしょ』
『駅前の花屋さんで買ってきたんだ〜 飾っとくね。こうすれば、寂しくないでしょ?』
『看護師さんが生花は持ち込み禁止だって…(´・ω・`)じゃあ僕が毎日会いに来るね!』
その姿はどこまでも健気で、一生懸命で。
看護師さんも、うらたくんたちも、涙を浮かべて見守っていた。
「…幸助さん、Aさんはまだ、貴方の腕の中ですか…?」
酸素マスクの中の唇が、ほんの少し吊り上がった気がした。
俺の視界は、いつのまにか歪んでいた。
「もう、許してあげてください。Aさんを、放してあげてください」
___________________________
まふまふside
いつまで待ってたらいい。
僕の問いかけに、誰も答える人はいなかった。
規則正しく、心臓が小さく音を立てつづけてる。
その音に安心して、そっとAの胸から耳を離す。
毎日こうして、Aが生きていることを確かめて、安堵して。
死んじゃったらどうしよう。このまま眠ったままだったらどうしよう。
毎朝襲ってくるこの不安を、Aの心臓の音で拭い続ける。
「…大丈夫だよって、言って…」
だれか。だれかそう言って。Aは死なないって、ちゃんと起きるって、言って。
だれか……
「だれか、Aをたすけて……」
ずっと心の奥にしまい込んでいた本音をこぼす。
嗚咽に込めた想いを、二年分の想いを、指の間をつたわせてこぼす。
後悔と未練と絶望で、頭がおかしくなってしまいそうだ。
あのとき、Aの手を掴めていれば。
振り解かれないくらい、強く掴めていれば。
ごめんなさい、ごめんね。
「守れなくて、ごめん…っ!!」
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夕焼涙雫(プロフ) - 栗原 真白さん» 面白かったですよいー(*ゝω・*) (2018年9月23日 6時) (レス) id: 76522a65f0 (このIDを非表示/違反報告)
栗原 真白 - 夕焼涙雫さん» ほ、ほんとですか…?!嬉しいです、ありがとです…!! (2018年9月22日 19時) (レス) id: 0170d3c859 (このIDを非表示/違反報告)
栗原 真白 - Canpasuーキャンーさん» ありがとうございます(*>ω<*) (2018年9月22日 19時) (レス) id: 0170d3c859 (このIDを非表示/違反報告)
夕焼涙雫(プロフ) - 完結じゃー!時間がある時(=休日)に読み返そう (2018年9月20日 6時) (レス) id: 76522a65f0 (このIDを非表示/違反報告)
Canpasuーキャンー(プロフ) - 完結(?)お疲れさま!そらるさんの次回作、楽しみにしてるよ! (2018年9月19日 20時) (レス) id: 1cab1691ff (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:青瀬真白 | 作成日時:2018年6月26日 6時