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なくしてしまったもの。 ページ3

まふまふside


「………………………………………」


Aは、僕のことをばかだと言い放った。

笑いながら。 『どうして止めるの』とでも言いたそうな表情をきれいに歪めながら。

そして今は、一人で泣き続ける僕をただみつめている。
なんで僕がここにいるのか、不思議に思ってるんだろうな。

忘れられていたんだと思っていた。

なのにAがちゃんと僕の名前を覚えていてくれた。
うれしくて、悲しくて、Aがこんなに思い詰めてしまうまでそばにいられなかった自分が
ひどく情けなくなってきて。

「…………とりあえず、離して。」

Aは無表情にいった。

「いや」

僕はさっきよりもずっと強く抱きしめた。
だって、ここで手を離したら、今度こそAが手の届かないところに行ってしまいそうな
いやな想像が頭の中をよぎったから。

失いたくない。

「まふくん、離し……」
「絶対いや。死ぬのやめるっていうまで離さない。」

Aが言葉に詰まった。
ああ、やっぱり。
本気だったんだ。
Aのあきらめたような深いため息が聞こえてばっと顔を上げると、
さっきと同じ笑顔のAの横顔が見えた。


「わかったよ。やめるから、離して。」


僕は言われた通り回していた腕を解いた。
Aはすっと立ち上がり、ベランダから部屋に入っていった。

僕もそのあとを追いかける。
Aは奥の寝室でベッドに力なく横たわっていた。
近づいていき、そっと頭を触る。
一瞬びくっと体がふるえたが、やさしくなでていると、無表情だった顔に
ほんの少しだけ安心したような温かさがにじんできた。

「……ピアス、あけてたんだね。」

髪の毛を分けたら、耳たぶに小さな穴があいていた。
Aはこくんとうなずいた。

「彼氏も、あけてたから。」

彼氏。
よく見たら、Aが今いるベッドの奥にもう一つベッドがある。
まだシーツにシワが残っているから、つい最近まで一緒に住んでいたんだろう。


「…っ…!!A…っ?」


どんな人だったの、と聞こうとAを見ると、
口元をおさえて、苦しそうに顔を歪めていた。

「どうしたの、気持ち悪い!?えっと、どうしよ、あ…っと、
 とりあえずトイレいこっか」

Aがうなずいたのを確認して、横抱きで運んでいく。
こんな状態になるほど、つらい思いをしたんだろうか。
Aを介抱しながら、僕は唇をかんだ。





僕は、ずっとAが好きだった。

*2→←*2



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設定タグ:まふまふ , 恋愛 , 歌い手   
作品ジャンル:恋愛
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夕焼涙雫(プロフ) - 栗原 真白さん» 面白かったですよいー(*ゝω・*) (2018年9月23日 6時) (レス) id: 76522a65f0 (このIDを非表示/違反報告)
栗原 真白 - 夕焼涙雫さん» ほ、ほんとですか…?!嬉しいです、ありがとです…!! (2018年9月22日 19時) (レス) id: 0170d3c859 (このIDを非表示/違反報告)
栗原 真白 - Canpasuーキャンーさん» ありがとうございます(*>ω<*) (2018年9月22日 19時) (レス) id: 0170d3c859 (このIDを非表示/違反報告)
夕焼涙雫(プロフ) - 完結じゃー!時間がある時(=休日)に読み返そう (2018年9月20日 6時) (レス) id: 76522a65f0 (このIDを非表示/違反報告)
Canpasuーキャンー(プロフ) - 完結(?)お疲れさま!そらるさんの次回作、楽しみにしてるよ! (2018年9月19日 20時) (レス) id: 1cab1691ff (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:青瀬真白 | 作成日時:2018年6月26日 6時

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