瞬間的感情論【歌い手】

第二十六幕 side you ページ34

……あの後。
まふまふさんの携帯に、スズムさんから呼び出しがあって。

私たちはそらるさんの家に戻ることになった。

別れ際、歌詞太郎さんは私にそっと紙を渡してきた。
曰く、『帰ったら開けてみて』と。

それから、また会おうね。とも言ってくれた。

嬉しかった。けど、

「あの、まふまふさん。」

ま「んー？どしたの。」

気になっていたことをまふさんに聞いてみる。

「歌詞太郎さんって、ご自分のことを『俺』って言ってるんですか？」

ま「…………え？」


歌詞太郎さんの名前が出た瞬間、まふまふさんは顔をしかめたけど、直ぐに不思議そうな顔をした。

ま「………どういうこと、かな。」

「何となく……違和感というか、無理してるような気がしたので……」

まふまふさんはしばらく考えていたけど、やがて薄く笑った。

ま「Aちゃんって、鋭いね。」

その笑みは、何故か自嘲気味で。

ま「……そうだよ。」

「………？」

ま「歌詞さんの一人称は、前まで『僕』だったんだ。」

どうして。



それが言葉に出来なかったのは、まふまふさんの顔があまりに痛々しかったから。

この人に聞くのは駄目だ。

直感的にそう思った。



ま「ごめんね、これ以上詳しくは言えない。」

「いえ、………良いんです。」


ここから先は、私が入るところじゃない。

ううん、入れるところじゃない。

この人達の問題は、複雑だ。

私みたいな甘ちゃんが入ったら、壊れてしまう。

それに私だって。

他の人の問題に口を出せる程、余裕なんてない。

「すいませんでした、まふまふさん。」

ま「ん、いいよいいよ。」

そう言ってまふまふさんは笑ってくれた。

……許してくれた。

私みたいな他人にこんな事聞かれても、嫌な顔一つしないで。
笑って許してくれるのは、それだけまふまふさんの心が、強いから。
この人は、とても強い人だ。

……私も、こんな人になりたい。


「………まふさん、って呼んでも良いですか？」

ま「…うん！もちろん！」

まずは、この人達に歩み寄ってみよう。
そうすれば、きっと受け入れてくれる。

この人達は、優しいから。

ただ優し過ぎるから、皆なにかを抱えてる。

せめて、その何かを軽く出来たら。


涼さん………スズムさんが私に声をかけてくれたように。
私も、皆と繋がりを持ってみたい。

まずはその第一歩。

「まふさん、」

勇気を出せばきっと受け入れてくれる。

「私と、友達になって下さい。」







私、成長できたかな？

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