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「ごめん、お待たせ。」
キッチリスーツを着こなして現れたのは某動画サイトでお世話になっている桐谷という男である。
店員にコーヒーを1杯頼むと心配症を見せる。
「引越したんだって?父親とはどうなった?今の住んでるところはどうだ?嫌な思いしてないか?」
『父親とは喧嘩別れみたいになったかな。今のお世話になってるところはとてもいい所だよ。たくさん人がいて賑やかで楽しい。心配してくれて有難う。やっていけそうだよ。』
桐谷の質問攻めにも微笑み答える。三角には向かいにある公園で待ってもらっている。人を待たせてる旨を伝えて話を手短に終わらせるようお願いする。
「早速だけど今月はこのくらいの収入だ。確認してくれ。それから事務所から引越し祝いとしてプレゼントを用意する。何がいいか考えておいてくれ。」
『有難う。プレゼントかぁ、音響らへんとかかなぁ。今は一人部屋だし収録環境整えたい。なんて我儘かな?』
【なつ、】として成長する為に意見を述べる。それを桐谷は手帳にメモをとる。
「我儘ではないだろ。できるだけ希望を叶えるよう努力する。防音はどうするんだ?」
こくり、とミルクティーを飲み込むと『貯金おろして業者に頼むつもり。』と困り顔で笑う。つもりとしているのも、まだどこの業者に頼むか決まっていないのだ。大事な事だから慎重になるのは仕方がない。
「俺の方でも調べておく。後で連絡するな。それから、」とテキパキと会話を進めていく。こういう気遣えるところが少女が桐谷を信頼している部分だ。
「そういえば、待たせてる人って男か?これからデートだったか?すまんな。」
唐突にそう言う桐谷に怪訝な顔を向けてしまう。これは仕方ない。もし桐谷がニヤニヤとしていたならばれっきとしたセクハラなのであるから。しかし、ここは桐谷。心の底から思っている顔だ。
『男の人だけどデートじゃないよ。これから家具とか生活用品買いに行くの。まあ、着いてきた、みたいなものかな?』
くすくすと笑いながら話すと、安堵した顔を向けられる。
「俺は何もしてあげられないけど、その今の家なら安心かもな。お前がそんな顔で話すなんてな。」
少し恥ずかしくなり顔を逸らすも『アリガト、』と頬を染めお礼を伝える。「そろそろ出るか。」と伝票を持って立ち上がる桐谷。大人である桐谷がお会計を済ませてくれた。再びお礼と『ご馳走様でした。』を伝えると桐谷は「またな。」と人混みの中へ消えて行った。
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作者名:千依 | 作成日時:2021年2月26日 7時