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桜が咲き乱れる季節、1人の少女の運命の歯車がゆっくりと回り出す―――。



▽―――

『…帰らなきゃ。』

長い黒髪を揺らして顔を上げる。
帰って夕飯を作らないと。

パタパタと支度をすると少女は【音楽準備室】から出て下校する。
オレンジに染まる空をぼんやり眺めながら帰路を歩く。スーパーに寄り食材を買えば少し足早に帰宅する。

『…。』

無言で玄関を開けて父親がまだ帰っていないことを確認すると急いでキッチンへ向かう。その途中でリビングが酒缶や酒瓶つまみのゴミなどで汚れているのを目にする。はぁ、と溜息をひとつ零し先にリビングを掃除し始める。
完璧に掃除するとキッチンへ向かい調理を始める。


コトリ、テーブルにお皿を置いて準備が出来た頃、タイミングを見計らったかのように父親が帰宅する。

「A〜、聞いてくれよ〜。今日会社でな、」

何か失敗をしたのだろう、情けない声を出して話をしてくる父親。少女は頷き時折相槌を打つ。いただきますも何も無しに父親は用意された食事に手をつける。よかった、味は問題ないみたい。そう心で安堵したのも束の間、父親の様子が変わる。

「俺が悪いのか?なんでいつもいつも俺ばかりがこんな目にあう、お前も情けない父親だと思ってるんだろう?あぁ?」

その言葉を皮切りに父親はバァンとテーブルを叩き立ち上がる。そして少女の長い髪を掴みテーブルに叩きつける。もう一度顔を上げさせ立ち上がらせては床に顔を擦り付けるように押し付ける。

「俺のせいで母親も出て行ってお前も俺を恨んでるんだろう?なんだってんだ!!俺は悪くない!」

パンッと乾いた音がリビングに響く。少女の頬は赤く腫れ上がる。しかし、いくら抵抗しても無駄なことと少女は理解していたため無抵抗で暴力を受け入れるしかない。次第に暴力はエスカレートしていき、腹部への蹴りや頭部への拳骨などと力が増していく。

そしていつも、少女の意識が飛びかける頃に父親は、

「…っ、Aっ、A…っ、ごめんな。俺がこんな弱いばかりに…っ、ごめんなぁ。」

と、少女の頭を抱えて泣いて謝るのだ。少女はそれを聞きゆっくり瞼を閉じる。



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作者名:千依 | 作成日時:2021年2月26日 7時

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