刺傷は皮膚を通って神経まで ページ45
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生ぬるい、という言葉を平等院鳳凰がこぼすのを、鬼は幾度となく耳にしていたし、実際鬼も、同意しないわけではない。ただ所かまわず厳しくすればいいとは考えておらず、そう言った考えの違いにより、衝突することも少なくはないが。
まあ、短くはない付き合いだ。相手の性格も、言わんとしていることもわかるのだが。
しかしそれにしたって、今日の平等院は“らしくなかった”――と、鬼は思う。
彼は威圧的で、自信家で、そして独善的な部分もある男だが――しかし。あのように、誰かひとりを執拗に攻撃するようなことは、なんというか、“らしくない”。打倒平等院に情熱を注ぐ徳川という男を育てることに尽力していた鬼にはわかる、ひとりの人間に固執するような真似は、常の平等院からは考えられない。特に、自分より格下の、中学生を相手にだ。
だから言った。平等院本人に、「……“らしくない”な」と。
「…………」
平等院は黙って目を眇める。
「そんなにあの才能が怖いか、平等院」
「……なんだと」
低く呻るように、平等院は言った。
「AA……まだ粗削りだが、育てれば大きな存在になる。平等院、お前を喰らうほどにな。それに怖気づきでもしたか。今のうちに、その芽を摘んでおこうとでも思ったか」
平等院は、テニスプレイヤーだ。なにを今更と思うだろうが――しかし。彼は、テニスプレイヤーなのだ。力を追い求め、強さを追い求め、立ちふさがる敵を倒し、勝利を掴む。つまり、元も子もない言い方をすれば――自分の実力を誇示し続けたいという欲求が強い。だから敗北をなによりも恐れる。自分の立ち位置を脅かすものを、排除したいと強く願う。
下からの脅威など、もってのほかだ。
「お前は、あのガキを怖がっているんだ」
「――くっ、はは」
途端、漏れだしたのは地を這うような笑い声だ。平等院はひとしきり肩を震わせると、す、と鬼を睨みつける。
「俺が――なんだと?」
短い一言で、さすがの威圧感。重み。びり、と空気がしびれる。ふん、と平等院は鼻を鳴らした。そんなことはないと言外に否定する態度だった。
鬼に背を向け、その場を立ち去ろうとする平等院に、なおも鬼は言う。生憎平等院の威圧に今更ひるむほどの繊細な神経も畏怖も、持ち合わせはない。
「あのガキは――」
AA。
あの中学生は。
「あいつは――本物の化け物だ」
平等院は一瞬足を止め、何も言わず去って行った。
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角砂糖(プロフ) - 美琴さん» ありがとうございます!!(大声) (2020年3月11日 19時) (レス) id: 651af228bd (このIDを非表示/違反報告)
美琴 - 好きです(突然の告白) (2020年3月9日 20時) (レス) id: 0419c563a9 (このIDを非表示/違反報告)
角砂糖(プロフ) - 蘇芳さん» この作品を愛していただき本当にありがとうございます。この話の続編は、今の所はあまり考えていません。今非常に私生活が忙しく、それが一段落したら何か書きたいなとは思っていますので、いつになるかわかりませんが、もし気が向けばお付き合いいただけると幸いです。 (2020年1月30日 4時) (レス) id: 651af228bd (このIDを非表示/違反報告)
蘇芳(プロフ) - とても面白くて一気に読んでしまいました!もしもあるのなら続編楽しみにしています。これからも頑張ってください! (2020年1月24日 20時) (レス) id: ec6c109e68 (このIDを非表示/違反報告)
ピット☆(プロフ) - 角砂糖さん» そうです!覚えていてもらえて嬉しいです!!予定があるかはわかりませんが次の作品をお待ちしてます! (2019年11月20日 1時) (レス) id: f631e9f6d4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:角砂糖 | 作成日時:2019年3月18日 21時