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What's your name? □ ページ15

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「Aがなぜ、ダブルスを苦手としているかわかるか」
「……ヘタだからじゃなくて?」
「ほう、Aが下手だと思うか」
「いや全然思えねえっす」

 柳の問いに首をぶんぶんと横に振る赤也は、いままで幾度となく行われた対Aの試合を思い返している。
 ――ダブルスにおいての強さというのは、ペアとの相性、協力、信頼関係やらが深くかかわってくるが、しかしある程度、曲がりなりにも試合を成立させる程度のパワーでいいのなら、そんなものは必要ない。乱暴に言って、テニスが上手い者とテニスが上手い者でペアを組めば、それなりにテニスが上手いペアが出来上がるのだ。もちろんそれでは強敵には立ち向かえないから、ダブルスというのは面白いのだが――。
 さて、しかし千景は違う。言うまでもなくAは圧倒的に“テニスが上手い者”だが、彼を使っては上手いペアは作れない。
 なぜなら、と柳は言う。

「Aのプレイスタイルが独特過ぎるからだ」

 あるいはそれは、ひとりよがりと言い換えてもいい。
 Aのプレイスタイル――例の、野性の勘頼りの、コートを目一杯に使った、型にはまらない縦横無尽のそれだ。

「あれは、他の者がリズムを、ペースを合わせられるものではない――AA特有の、本人にしか使いこなせないスタイルだ。だからあいつは、誰とも息を合わせることができない」

 異質で異端な、読めないテニス。相手の手を本能と感覚で捕まえて、しかし自分の手は読ませない。それがAの戦い方だ。常に狩る側の強者。知性を覚えた獣は、行動パターンを悟らせない。
 しかしそれは、味方のはずのペアをさえ惑わしてしまう。群れることのできない、孤高で孤独な王者。

「さらに、そんな息の合わないダブルスペアは、コート上に置かれた障害物のようなものだ。Aのプレイを阻害してしまう――奴本来の実力が出せない」

 皮肉なものではある。Aが折れかけたとき、彼を引っ張り上げたのは仲間たちの存在だった。Aは彼らを愛している――その力で、天衣無縫の極みという奥義までものにしてしまうほどに。それなのに、彼はコート上では――他人と共に居ることができないのだ。

「――……でもそれなら、幸村部長とだろうが誰だろうが、ダブルスできないってことじゃん」
「それは、見ていればわかるんじゃないか」

 くく、と柳はいたずらめくように笑った。


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角砂糖(プロフ) - 美琴さん» ありがとうございます!!(大声) (2020年3月11日 19時) (レス) id: 651af228bd (このIDを非表示/違反報告)
美琴 - 好きです(突然の告白) (2020年3月9日 20時) (レス) id: 0419c563a9 (このIDを非表示/違反報告)
角砂糖(プロフ) - 蘇芳さん» この作品を愛していただき本当にありがとうございます。この話の続編は、今の所はあまり考えていません。今非常に私生活が忙しく、それが一段落したら何か書きたいなとは思っていますので、いつになるかわかりませんが、もし気が向けばお付き合いいただけると幸いです。 (2020年1月30日 4時) (レス) id: 651af228bd (このIDを非表示/違反報告)
蘇芳(プロフ) - とても面白くて一気に読んでしまいました!もしもあるのなら続編楽しみにしています。これからも頑張ってください! (2020年1月24日 20時) (レス) id: ec6c109e68 (このIDを非表示/違反報告)
ピット☆(プロフ) - 角砂糖さん» そうです!覚えていてもらえて嬉しいです!!予定があるかはわかりませんが次の作品をお待ちしてます! (2019年11月20日 1時) (レス) id: f631e9f6d4 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:角砂糖 | 作成日時:2019年3月18日 21時

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