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正門に着くと、私は彼女の腕を掴んでいた手を急いで離した。なんて声をかければいいかわからず無言のままでいると美門さんの方から話を切り出した。
「あの、ありがとう」
美門さんは私を真っ直ぐ見て、ふわりと微笑んだ。
「ううん……というか、いきなり名前で呼んでごめん」
「え？ 全然気にしてないよ。むしろ嬉しかったし」
心なしか、彼女が背負っていたリュックサックが揺れた。名前で呼ぼうが名字で呼ぼうが、大して変わらないと思うけど、なんとなく名前で呼んだ方が仲良さそうに見えたかな、と思い呼んだだけだ。名字にさん付けじゃ、あからさまに他人っぽいし。
「それよりも、被害が……瑠花ちゃんにもいったらどうしよう」
名前を呼んだからって、別に私のことまで名前で呼ばなくてもいいのに。気分が悪くなるわけではないから、まあいいか。
「別にいいよ、何かあればまた学校行かなければいいし」
中学は義務教育なのでまだ家に引き籠っていられる。高校になるとそうはいかないけど。受験の影響が及ぶといっても、成績は問わない高校だって今はある。あるいは点数さえ高ければ問題ないとも言われてるから塾にでも通えばいい。
とにかく、私は嫌がらせを受けてもいっこうに構わなかった。
「あんまり深く考えないで」
先輩たちがこっちまできていたら面倒なので、私は歩き始めた。それに続き、美門さんもついてくる。
家の方角が同じだったとは驚きだった。あまり外に出ない私は近所付き合いも悪く、隣人の顔すら知らない。無論、同じ方角に住んでいる同級生など知りもしないのだ。こうして知れたのは、よかったのかもしれない。
美門さんをちらりと見ると、まだ気にしているのか眉間にしわを寄せていた。
「あ、藍奈さん！」
暫くお互い無言で歩いていると、遠くの方で美門さんの呼ぶ声がした。顔をあげると、私たちより一回り小さめの男の子が手を振っていた。美門さんの知り合いかな、と思い横に目を向けると彼女も小さく手を振っていた。
「自己紹介のときいた、
そんな人もいたな、と思っていると美門さんが彼に近づいて行った。私もつられ舟木さんという人の弟に近寄る。
「どうしたの？」
「姉ちゃんが家に入れてくれないから」
その言葉に思わず、え？ と声を出してしまった。それは美門さんも同じだったようで。まだ何か言いたそうだった弟くんの話を、私たちは聞くことにした。
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