検索窓
今日:1 hit、昨日:0 hit、合計:6,276 hit

ページ ページ4

その後は、お父さんから受けた怪我を治療しながら、平穏な生活を送っていた。だけど、気持ちが晴れなかった。なぜだか、悪いことをしたような気分だった。憂鬱。前のように明るく振る舞うこともできない。疲れているのか必要最低限の行動しかとれなかった。喋る必要性も感じない。これが無気力というんだろうか。魂が抜けたように、部屋の隅に座り1日を過ごす日々。

 そんなくろを、お父さんのお姉さんはだんだん気味悪がった。接し方は変わらなかったものの、眉をひそめてくろを見てくる。愛されてる気がしない。お母さんがくろに優しかったときのように、確かな愛を感じれるものがほしくなった。だから、暗い性格を、昔のように明るくした。そうしたら、お父さんのお姉さんは笑ってくれた。久々にくろに向かって笑いかけてくれたとき『愛してくれている』と感じだ。でも、その感情はすぐに消えた。一時的なもので、1人になるとすぐに虚しくなる。

 夜毎泣く。辛いから、悲しいから、しんどいから、どれも違う。ただ、布団にもぐって横になると自然と目から雫が零れる。心にぽっかりと空いた穴が何で埋まるのか。ずっと考えている。こんな毎日嫌だ。どこかへ行こうか。行く場所もないけれど、そうしよう。早くこの虚しさを消したい。そうすれば、きっと何か。何か変わるはずだ。

 それから家を出て、電車に乗って、タクシーに乗って、遠くへ行った。見る人は皆、変わった見た目で、くろとは全然違った。獣のような耳や尻尾が生えていたり、耳が尖っていたり、人間とは言えない姿をしていた。くろと同じ人間の扱いをされていることを不思議に思っていた。今も。町をぶらぶらと、魔法使いを避けるように路地裏で過ごして、お腹が空いたらゴミ箱を漁って。まるで捨てられたような猫のように生活していた。自分から外に飛び出したはずなのに。

 死にそうだった。空腹と、息苦しさ、疲労、全てが限界を越えていた。

 ――それから数日後、アグノマギアの人が神樹につれてきてくれたんだっけ。懐かしい。唯一、過去の記憶が蘇ってもいいと思える瞬間だ。本当にここに来れてよかったと思っている。心の隙間を埋めてくれるような人なんていないけれども。けど、前より、生きやすくなったのは確かな証拠だ。

 冒頭に戻る。いずれ、この穴が埋まることを願っている。でも、本当の自分のことを言えないのは、きっと。



そんなこと無理だってわかってるから

【スクランブル・エッグ】 ※一話完結→←前ページ



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 8.6/10 (13 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
7人がお気に入り
設定タグ:神樹を守る子ら , 派生作品 , オリジナル作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

円藤 マメ(プロフ) - 菜の葉さん» ありがとうございます:) 褒められて照れる。リンク記載の件把握しました、よろしくお願いします!。 (2019年7月19日 19時) (レス) id: 3241387696 (このIDを非表示/違反報告)
菜の葉(プロフ) - 文才がヤバいですッ! クロちゃんの想いとか感情とか、すごい伝わってきます…! こちらの作品を、『リンク集』のところに載せさせていただきますね! (2019年7月19日 18時) (レス) id: 8971b2ec5c (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:円藤 マメ | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2019年7月18日 22時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。