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「さすがですね」
なんて口にしているが本心ではないだろう。イヤミを言われようが、今は冷静に、慎重に発言をするべきだ。ここでエトレアさんが、録音していた当主の悲鳴をイヤモニに近づけて使われると、当主の部屋に人が集まるのは事実。
それだけならまだしも、今は幻影旅団がいる。彼らがあの盗賊団と知られれば、事態は一変して彼らが狙われることになる。ここまで、絶を使っていたおかげか気を張っている警備員が彼らの気配に気づくことはなかったが、目の前に現れると話は変わってくる。絶は、気配を消すだけで存在を消しているわけではないから。
「エトレアさん、イエスかノーで答えてほしいの」
「なににですか？」
「あなたは、今回盗まれるであろう宝石を盗んだ？」
私がそう尋ねると、エトレアさんは穏やかに微笑んでいた表情から無表情に変わった。
「はい」
「宝石が盗まれると噂を流したのはあなた？」
「そうですよ」
どうして、と聞く前に彼はポケットに手を突っ込み、赤い宝石を取り出した。それはまさしく、私が守ろうとしていた宝石。真っ赤なリップのように、煌めくその宝石は──つい最近見つかったとされるルージュ・キッスだ。
ようやく思い出した。かつてハンターや研究者が探してもなかなか発見されなかった宝石。それがつい最近、ある資産家の自宅から見つかった。なぜ資産家が所持していたのかは解明の最中である。まさか、とは思うけれど。
「資産家が持っていた理由を、突き止めるためにそれを盗んだの？」
この宝石は、以前オークションで売り出され、多くの研究者が高額の値段で落札しようとしたが、アールグレイ家……そう、我が当主が見事勝ち取ったのだ。
「ええ、実物を見ればなにか判明するかと――」
そう話しだしたエトレアさんだったが、急に声が聞こえなくなった。横から黒い影がぬっと飛び出してきたかと思うと、エトレアさんの首が飛んだのだ。訳が分からず、口をあけたまま目の前の光景を見つめる。
「フェイ！」
後ろから、電話をして仲間を呼んでいた彼の声が聞こえる。目の前には黒いコートに身を包んだ男が、エトレアさんの横に立っていた。ばたり、とエトレアさんが倒れた音で我に返る。彼はエトレアさんからルージュ・キッスを奪い取るとドアの方へ歩いてくる。
「お前たちのお喋りに付きあてるほどワタシたち、暇じゃないよ」
その言葉を皮切りに、幻影旅団は当主の部屋から去っていった。
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