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「当主はこのまま部屋で待機をしてください」
そういうと、私は再び走り出した。いくら距離が近いとはいえ、私が当主と話していた時間を考えると既に宝石は盗まれている可能性もある。
ゆっくりと部屋に入る。人の気配はないので、誰も来ていないんだろうか。……いや、遅かったのだ。中央にあった宝石の箱が、取り外されている。赤く輝いていた宝石の姿はどこにも見当たらない。床に落ちている様子もない。くそ！ と思いながら自分の太股を叩く。エトレアさんを探す余裕などあるだろうか。いや、探さなければいけない。なんとしてでも、取り戻さなければ。
そう思った矢先わ背後に人の気配を感じた。すぐさま距離を取り、誰が後ろに立っているのか確認する。黒いコートで身を包んだ男と、緑のジャージを着た男。扉の奥にも誰かがいるみたいだ。電話しているらしい。仲間を呼んでいるのかもしれない。
「お前、ここで何してる」
緑のジャージを着た男が私に聞く。ここで怖気づくことはない。なぜなら私は宝石を盗まれた後に来たからだ。持ってもいないし、場所も知らない。だから殺されることはそうそうないだろう、と考えていた。
「警備。たぶん、あなたたちが狙っている宝石のね。でも残念ね、もう宝石はないわよ」
黒いコートを着た男の眉間に皺が寄る。しかし何も言わず、代わりにジャージ男の方が「どういうことだ？」尋ねた。それと同時に、電話していた人物も入ってくる。三対一だ。戦闘には持ち込めないだろう。
「あなたたちの仲間がもう盗んだの。だから、もう用はないでしょう？」
「え？ それはないよ」
途中から話を聞いていたのか、先程入ってきた人物が私の言葉を否定する。
「さっき団長たちに電話かけたけど、誰ももう盗んだなんて言ってなかったよ」
「だ、そうだ」
どういうこと？ じゃあ、エトレアさんとこの人たちは仲間じゃないということなのだろうか。予告したのはエトレアさんだけでこの人たちはそれを利用しただけ？ その可能性はある。ある人が盗むと予告した上で、別の人が盗む。別の人が盗むとき、警戒は予告した方に向くから盗みやすくなる。じゃあ、この人たちが盗みに来たのはたまたま。そもそも予告というのも噂だけだったじゃないか。なんでそんなことに気づかなかったんだ。
「そう。でもどっちにしろ同じよ。もう別の人が盗んじゃったわ」
私がそう言ったと同時に黒いコートの人が消えたと思うと背中に衝撃が走った。
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