ページ ページ3
そして翌日。私たちの任務開始時間は朝の4時からだ。昨日は深夜に招集がかかったので「休めた」とはいっても3時間も眠れていないだろう。だけど、それがどうした。充分に休息がとれなくとも、仕事は完全に遂行するのが私たちの役目だ。
「私はここで警備していればいいんですね？」
私が聞くと、ああ、と頷く当主。空き部屋の真ん中で、赤い宝石が煌めいている。どうやら、噂の盗人(ぬすっと)はこの宝石を欲しがっているのだろう。当主の近くには昨夜、お話ししたエトレアさんもいる。昨日とはうってかわって真剣な表情だ。これでへらりとしていたら怒鳴るつもりだったけど、その必要はなさそうだった。
「では、私はこれで失礼する」
そう言いながら当主は部屋から出ようとする。しかし、入口の方で立ち止まった。なにかなと思っていると、「いいか」と言い、「例え何があっても部屋から離れるなよ」と念を押してきた。
「承知しました」
私の返事を聞き届けると、当主とエトレアさんは部屋から出ていった。バタン、と音がすると静寂が訪れる。これからほぼ丸一日、一人で過ごさなければいけない。正直、予定の時刻までは暇になるだろう。かといって気を抜いていいわけでもないけれど、少しくらい肩の荷を下ろしてもいいだろう。
二重構造の透明なケースに目をやる。その中で赤い宝石が守られていた。名はなんと言うのだろう。ロキシィお嬢様の傍らで仕事をしてきたのでその面に関しては弱くはない。
宝石の特徴を見ながら何の宝石なのか、考える。この宝石だけを狙っているのだから、盗むほどの理由がきっとあるはず──。
あれから考えているが、何一つとしてわからない。朝食が届けられたことにより我に返った。時刻は8時を回っており、既に4時間は経過している。余るほど候補はあるのに、この宝石に相応しい名前はでてこない。朝食のパンをかじりながらもう一度宝石に目をやる。
「全ッ然ダメね……」
宝石を眺めながら呟く。赤く、光沢のあるソレはまるで真っ赤なルージュ色の口紅で塗った唇のようだ。宝石の名を考えつつも、誰かが部屋に入ってこないか警戒して部屋の中で時間を過ごした。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 164人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
