【hxh】月夜のグランギニョル【フェイタン】 (ページ11)

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「っ……」

　考えている暇はない。マイクの電源をつけ、仲間に当主の部屋にくるように伝えた。私は、当主から敷地外に出るとブザーを鳴る設定を解除してもらい、奴らの後を追いかけた。宝石を渡すことは約束したが、このまま黙って持っていかれるわけにはいかない。

　当主の部屋から出ると同時に絶を使った。彼らが出ていく際、"隠"を使って黒猫につけさせたのだ。隠も念能力の一種で、絶の応用技だ。念能力で作られた具現化されたものを見えにくくする。黒猫は、彼らが"凝"を使うまでは見つからないだろう。
　目に念を集中させた凝を使えば、隠で見えにくくした念が見えるようになってしまう。しかし、無意識ではできない。見つけられる可能性は低いだろう。

　黒猫は、私が使える"円"の範囲内であれば追跡可能である。彼らが出てからすぐに追っているため、すぐ見つかるはずだ。

　案の定、奴らはすぐ見つけられた。けど奪った車で逃走しているのか、走っている私との距離が縮まらず、それどころか離れるばかりだ。体力には自信がある方だが、どこまで走るのかわからない以上はこのまま走り続けるのは危険な気もしてきた。

　しかし、彼らはある一定の場所でぱったりと動かなくなった。黒猫は動き続けているので、おそらく徒歩に切り換えたのだろう。もう少しで、彼らの拠点にたどり着ける。力を振り絞って、私は足を必死に動かす。ビルからビルを飛び越えていくと、彼らが盗んだであろう車を見つけた。

　そこは、人通りが少なく、空き家が何軒もある住宅街だった。先を進んでいくと崩壊しかけたアパートがたくさんあった。既に奴らの動きは止まっている。黒猫に気づいたか、単純に拠点に着いたのか――。

　……少し、慎重に進んでいった方がよさそうだ。

　黒猫との距離は約5m。どのビルに奴らがいるのかはわかっている。廃れたアパートからは小さく笑い声が聞こえてきた。黒猫には気づいていなさそうだ。身の安全のため、急速に黒猫に撤退指示を出す。

　戻ってきた黒猫を消すと、私はそっとビルに近づいて行った。小石を蹴っ飛ばさないように、慎重に、一歩一歩進む。少しでも気を緩めると足音に気づかれてしまいそうだ。

　息をするのも忘れて、私はビルにひっそりと体をくっつけた。しん、と静まり返っている廃墟では、彼らの声は丸聞こえだった。