【第０章】 真っ赤なルージュが引き寄せる ページ1
――そう、これはある晩に召集されたことから始まった出来事だった。
私が仕える当主の娘であるロキシィ=アールグレイ──もといロキシィお嬢様は、資産家のお嬢様という点を除けばいたって普通の女の子だ。女の子らしくオシャレが大好きで、特に宝石があしらわれた高価なネックレスや指輪などのアクセサリーを好んで集めている。
そんなお嬢様が日々集めている装飾品を何者かが盗もうとしている。そのような悪い噂がボディガードから始まり、メイドや執事の中で流行りだした。噂で済めばいいのだが、何せ噂だという根拠も、噂でないという根拠もなかった。故に、ボディーガードとして雇われている私たちが出動することになり、現在に至る。
「ロキシィの命を優先しろ。宝石は二の次で構わない」
父親である当主が、同じボディーガードに言う。そして、男女一人ずつ、ロキシィの傍につくように命じられた。さらにロキシィの部屋前に一人、必要であろう部屋に一人ずつ配属されることに。
「A」
「はい、なんでしょう」
「別室に宝石を置くつもりだ。君さえよければ、そこで宝石を守ってほしい」
やはり、父親としても娘の笑顔は見たいのか、宝石を守ろうという考えもあるみたいだった。
「構いません。承知いたしました」
私が頷くと当主はまた別のボディーガードに話しに行かれてしまった。おそらく私にもう用はないだろう。
そのあいだ、宝石を守るということについて一人で考えていた。ロキシィ様を守るに値しないか、いや、宝石を守るということは危険も重々承知しないとできない。それを任せられるほど私が信頼されているのか。できれば、後者であってほしい。
「突然の召集に応じてくれたこと、誠に感謝する」
顔を上げると、既に当主は全員と話をし終えたようだった。
「犯行の予定時刻は明日の午後9時頃だ。くれぐれも内密に。では、解散」
そう言われるなり、音を揃えていっせいに立ち上がるボディーガードたち──いや、仲間か。彼らは解散を告げられると、ぞろぞろと帰っていく。ふと視線を感じ、振り返ると若そうな男の人がこちらを見ていた。目が合うと、にこりと微笑みながらこちらへ近づいてくる。これは直感だけど、なんだか面倒くさそうな人だ。
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