宵 /ss ページ8
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騒がしい居酒屋の戸を開けて、私は一人外に出た。お酒のせいで火照った頬を冷たい風が撫でる。嫌でも思い出される店内での出来事が、私の頭を埋め尽くしていく。
『っ...』
乾いていたはずの頬は、気付けば涙に濡れていた。
子供みたいにわんわん泣いて、ゴシゴシと目を擦りながら歩く。周りからの視線なんて気にする余裕は無かった。
話は、つい三十分程前に遡る。
・
がやがやとした店内。
営業部の田中さんが用意したという居酒屋は、なかなかの評判だった。
「じゃあ、乾杯！」
その声で、一斉にグラスの音が鳴る。
今日は会社の若手だけが集まる飲み会だった。
上司が居ないというこの状況は、私達が羽目を外すのにあまりに好都合だったんだと思う。
始まってから1、2時間が経ち、そろそろ皆が出来上がってきた、そんな時。
「王様ゲームしようよ」
誰からともなく上がってきたその提案に反対する人は誰も居らず、そのままゲームは始まった。
確かに最初は楽しかったし、一緒になって盛り上がっていた。
ある一つの命令が出るまでは。
「じゃあ、三番と五番！キス！」
トクン、と飛び跳ねた心臓
握り締めた割り箸の先には、3 と書かれている。
『私...3番、』
一斉に部屋が盛り上がった。それもつかの間。
「あ、俺だ、5番。」
そう言って名乗り出た彼は、櫻井翔。
私の、三年にも渡る片想いの相手。
周りの歓声が聞こえなくなる様な、強い衝撃。
周りに急かされて私の方へと移動する彼と目が合った。
少し茶色い瞳
外されたネクタイ
赤くなった頬
いつもと何も変わらない、笑顔。こんなにも焦っているのは私だけ。そりゃそうだ。彼にとっては飲み会の中の何気無い一場面。
「おい、そんな茶化すなよ (笑)」
笑いながら私の隣に座った彼
会社でいつも話してるはずなのに、何故か今は顔も見ることが出来ない。
周りの声が徐々に小さくなっていって、少しずつ彼の顔が近付いてくるのが分かった。
そしてあと数センチで唇が触れる、そんなタイミング。
「...ごめん、」
私にしか聞こえない声で、彼は呟いた。
そのすぐ後に、短い短いキス。
触れるだけの、でも甘くて優しいキス。
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ウタ(プロフ) - 愛梨さん» ありがとうございます！とても嬉しいです。励みになります。これからもマイペースに頑張ります！ (2020年1月5日 18時) (
レス) id: 2132398f2b (このIDを非表示/違反報告)
愛梨 - はじめまして。どのお話もとーっても面白くて大好きです。更新大変だとは思いますが頑張ってください。応援してます。 (2020年1月5日 14時) (レス) id: f7e12740e2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ウタ | 作成日時：2019年1月31日 21時
