誘惑 /ss ページ24
.
小さい頃から、男性に対しては鉄壁のガードを貫いてきたはずだった。
特に彼氏が欲しいと思ったことも無ければ、結婚がしたいとも思わない。自分で働いて稼いだお金で、自分の好きな事をして生きていたい。この考えだけは一生変わらないのだと思っていた。
「何難しい顔してんの(笑)」
私は今、自分の意思とは正反対の方向へ向かっている。
まさか、この私が？
偶然入ったレストランで声を掛けてきた男性の家のソファーでお酒を飲んでいるなんて、そんな事、あるはずが無い。
「それにしてもまさか本当に来てくれるとは思わなかったな。Aさんガード固そうだし。」
『…そうですね、私が一番驚いてます』
何もかも、お酒のせいだ。そう思わなければやっていけない。
櫻井、と名乗ったその人は、穏やかな笑みを浮かべながら私に色々と質問をしてくれている。
聞き上手なんだな、と思っていたけれど、どうやら話し上手でもあるらしい。なんだかこの人と話すのは楽しいと思えた。
「へぇ、結婚願望ないんだ」
『はい。なんか自分の幸せを制限されちゃう気がして。』
「はは、ちょっと分かるよその感覚」
『だから、男性と関わる必要もないかなって』
「あぁ、だから俺が声掛けた時あんなに睨んできたんだ(笑)」
『すみません……』
なんだか気まずくなって、テーブルの上の缶ビールを飲み干す。
いい感じに酔いが回ってきた。腕時計は、そろそろ終電が無くなることを警告している。
『あの、そろそろ』
「ん？」
『そろそろ終電が危ないのでこの辺で』
そう言って櫻井さんへと目線を移すと、すぐに違和感を感じた。目が、笑っていない。
「え、帰んの？」
『え？』
「泊まっていきなよ」
冗談かと思った。しかしどうしても冗談を言っている表情には見えない。
「あ、そっか。今まで男と関わってこなかったから分かんねぇか」
『何、がですか』
「家来た時点で何されてもOKです、って意味だからね」
『…』
「だからこういうのも」
『っひゃ…！』
少し離れた所に座っていた彼が、突然ぐっと距離を詰めたかと思えば、櫻井さんの舌が私の耳を舐めた。
驚きと恐怖で動けない私を、口角だけで笑う。
「良い反応」
「あの固いガードどこ行ったの(笑)」
ニヤリと笑った彼に、私は抵抗する事を止めた。
驚きと恐怖に混ざって、少しの好奇心が生まれていたことも、櫻井さんの妖しい表情に溺れていたことも、
何もかも全部。全部、お酒のせいだ。
end.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 39人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ウタ(プロフ) - 愛梨さん» ありがとうございます！とても嬉しいです。励みになります。これからもマイペースに頑張ります！ (2020年1月5日 18時) (
レス) id: 2132398f2b (このIDを非表示/違反報告)
愛梨 - はじめまして。どのお話もとーっても面白くて大好きです。更新大変だとは思いますが頑張ってください。応援してます。 (2020年1月5日 14時) (レス) id: f7e12740e2 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ウタ | 作成日時：2019年1月31日 21時
