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『はぁ、はぁ、』
膝に手を置いて呼吸をした。
服が体に張り付いて気持ちが悪い。
全速力で走って着いた公園の門の前。
この雨のせいか公園には勿論、周りに人はいなかった。
大きな木の下に向かって足を進める。
そこに女の人はいなかった。
『いるわけ、ないか』
どうしていると思ったのだろうと、数十分前カフェにいた自分に問いかける。
でも考えても考えても分からなくて、自分が馬鹿だからという結論に達した。
『もう帰ろうかな』
今日は帰ってシャワーを浴びて
また明日の放課後ここに来よう。
そう決めて体を翻した。
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『え、...』
「あの、...お久しぶりです」
ぺこりと俺に会釈をした女の人。
そう、あの日俺に傘を貸してくれた女の人が立っていた。
「今日も濡れてるんですね」
ふふ、と笑みを零す彼女。
『あ、えっと、...はい』
突然の事で驚いて上手く話せない。
それとは逆に、会えた、という事実が俺の心を満たした。
『あの!』
「っ、はい」
大きな声を出してしまって、彼女が肩をビクリと上げた。
『あ、ごめんなさい...』
「大丈夫ですよ、」
ふふ、とまた彼女が笑う。
今度は恥ずかしくなって、俯くことしか出来なかった。
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「...龍我、くん」
『はいっ、...え?』
自分の名前を呼ばれて周りを見渡した。
ここには俺と、女の人しかいない。
ということは...。
『俺の名前、知ってるんですか?』
横にいた彼女に問いかけた。
彼女はこくん、と小さく頷いた。
『な、何で、知ってるんですか?』
自然と前屈みになって距離が近づく。
それに気が付いた俺は咄嗟に下がろうと思ったが、彼女に腕を掴まれて出来なかった。
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「...好き、だから、です」
『へ?』
「あ...!あの、そうじゃなくて!」
目の前であたふたする彼女の姿に開いた口が塞がらない。
さっきの彼女の言葉が頭の中で繰り返される。
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好き...?って俺のこと、なの?
訳が分からなくなっていると、彼女と目が合った。すると彼女は頬を赤く染めた。
「私、龍我、くんと同じ高校で、歳は一歳私の方が上なんですけど」
「雨が降った日に偶見た龍我くんの横顔が忘れられるなくて、」
ボソボソと話す彼女。
彼女は、俺よりも前から俺を知っていたんだ。
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あい(プロフ) - ひまぽんさん» ひまぽんさん、コメントありがとうございます* 。続編などは少し検討させて頂きますね、これからも宜しくお願いします...! (2019年3月25日 0時) (レス) id: 0f506228be (このIDを非表示/違反報告)
ひまぽん(プロフ) - 龍我くんの話の続きが読んでみたいです。那須くんサイドの話も読んでみたくなりました。他の作品も楽しみにしています。 (2019年3月25日 0時) (レス) id: aeeb4a860b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あい | 作成日時:2018年9月9日 21時