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僕は、空っぽの人間だった。
愛も、学も、金だってそう。
貧乏で泥だらけなだけの労働者。
だから欲しかった。
何もかもに飢えて、自分がのし上がる方法だけを追求した。
毎日探鉱の仕事にあけくれた。
汚い仕事も厭わずこなした。
時には体も売った。
どんなに惨めでも、
貶されても、
泥水を啜ってでも、
それでも這い上がりたかった。
自分が、自分が、自分が。
僕の人生はいつでもそうだった。
__あの日、この荘園で出会った彼は、上質な服を着ていた。
鍼灸師だそうで、医師は嘸かし儲かるのだろう、と皮肉交じりに思っていた。
実際、彼は僕と何もかもが違った。
博識で穏やか。
言葉遣いが流暢で上品。
愛想が良くて料理もできる。
おまけに声も良くてスタイルもいい。
ああ今までの人生さぞ女に持て囃さただろうさ。
僕は、最初そんな彼のことが苦手だった。
生きるためにビジネスパートナーを組んだが、彼といると薄汚い自分が際立って見えた。
心の底に巣食うコンプレックスが刺激された。
…しかし、彼は、そんな僕すらも愛していた。
執拗いくらい何度も何度も囁く。
どれだけ拒んでも、ついてくる。
簡単にコントロール権を僕に明け渡す。
……ねぇ、なんで君はそんなに僕を信頼してくれるの?
委ねるって、委ねられるって、恐ろしいことだ。
僕は君が思っているよりずっと不器用だよ。
きっと君を上手く愛することが出来ないと思うよ。
…君みたいに、愛したこともなければ、愛されたこともないし。
…あーあ。
…本当に、
……愛するとは
「…僕は、やめておいた方がいいよ。」
愛するとは、僕には難儀な事だと思う。
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白帽子(プロフ) - 田中さん» コメントありがとうございます。おかげで更新頑張れます…! (3月12日 6時) (レス) id: f1b6561477 (このIDを非表示/違反報告)
田中(プロフ) - とても好きです♡これからも更新待ってます♡ (3月12日 1時) (レス) id: d3ff0093eb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白帽子 | 作成日時:2024年2月19日 21時