愛するとは【探鉱者】 (ページ3)

今日:20 hit、昨日:76 hit、合計:4,456 hit

2 ページ3

長らく閉じていた窓を開き、淀んだ部屋の空気を入れ替える。

風は乾いた冬の風をしており、ああもう秋も終わるな…と1つまた1つと葉を散らす樹木を見つめた。

しかし思えばここに来る前、あの村で鍼灸師の仕事をしていた頃はこんな風に景色を眺める風情あることはしなかった。

村は小さいなりに患者が多かったし、何より俺自身外に出るのが億劫な質だったから。

ああ、そんな俺がよもやこんな遠出をすることになるなんて。

俺は乾燥させた蓬の葉が入った手に収まるサイズの箱を窓際のタンスにしまいながら嘆息を漏らす。

……今日でこの荘園に来て1週間が過ぎようとしていた。

1週間と2日前、俺の所に一通の手紙が届いた。

この荘園への招待状だ。

俺の家系は代々鍼灸師だった。

だから俺も鍼灸師。

別に鍼灸師の仕事を辞めたいと思ったことは無い。

…と言うか辞めたいと言って辞められるものでもない。

家族は皆この仕事に誇りと矜恃を持っていた。

そんな中予告なく届いた招請に、少し胸が高鳴ったのを覚えている。

家族の内俺ただ一人が消去法で歩んでいるこの道を外れてこの招待を受けてみたらどうだろうか。

なにか自分のやりたいことが見つかるのではないだろうか。

そう思い俺は黙って荷物をまとめて村を出た。

…しかし、新しい自分を探すつもりで来たというのに未だ鍼灸の道具が手元にあるのは、滑稽だと思う。

まぁ、でもきっとこれも俺だ。

コンコン

「……？」

突然扉を叩かられる。

今は昼時。

義務である『ゲーム』の予定が入っているサバイバーが多いはずだが、一体誰だろう。

「…Aくん、ゲームのないお昼に突然ごめんなさいね。」
「エミリー・ダイアーよ。」
「少し話がしたいのだけれど……あまり大きな声で言えないことだから、部屋に入れてくれないかしら。」

…エミリー先生？