花の散る夜。【usss】 (ページ15)

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拾壱。ページ15

＿＿暫く経って、最初は何時ものように、適当に聞き流そうと思っていた彼の話に聞き入ってしまっている俺が居ることに気付いた。

嬉しそうに笑ったかと思えば、直ぐに顔を顰めたり。
ころころと表情を変えて、楽しそうに自分のことを話す坂田が羨ましいと思ったのかもしれない。

彼の話すことは、俺の十三の頃から止まったままの “ 外の世界 ” をそのままそっくり覆してしまうようなものばかりで、興味が湧いたのかもしれない。

でも、確実なのは、少なくとも坂田の話を聞いている今、この瞬間を嫌だと思ったりだとか、彼自身を鬱陶しいと思ったりだとか、そういう負の感情は一切なかったってことだ。

子の刻を回った頃、坂田はくぁ、と小さく欠伸を零した。

「うらさん、俺眠い…、」

そう呟くと、坂田はまた欠伸をした。

もちろん彼が寝ると言えば俺は寝るし、彼が情事をすると言えばするんだけど、どうしてか、心の臓が煩く鳴り響いた。

何でかなんて、分からないけど、坂田が、それを望むことが、こわかった。

でも当の本人はそんな素振り全く見せず、並んで敷かれた布団の左側に入ると、「じゃあ御休みなさーい、」なんて言って俺に背を向けるものだから、ちょっと安心したのは事実だけど、それ以上に驚いてしまった。

もちろん、そんな決まりが定められている訳ではないが、此方としてみればそれが仕事な訳で、ただ自分の話をして、隣り合わせの布団に寝るだけであの馬鹿ほど高い “ おれ ” の代金を払わせるのは、俺のほうが心苦しかったりする。
でも、それに安心している俺も居て、こんな気持ち初めてで、どうすれば良いのか分からなくて。

だから、俺は素直に彼の隣の布団に入れなかった。

立ち竦んだままの俺に、坂田は、

「うらさんは寝やんの？」

と、丸い紅だけを向けた。
それにも応えずにいると、俺の心中を察したのか、坂田の長いまつげが、ゆったりと伏せられた。

「…俺はせんよ、そんなこと。うらさんだって、好きなひととしたいやろ。」

そんなこと言われたの、初めてだった。
坂田には、初めてのことをされて、言われてばかりだ。

誰が遊女(しょうひん)の心のうちなんて考えるだろうか。自分が買ったものなんだから、何をしてもいい筈なのに。それで、この街は成り立っているのに。

あほすぎる坂田の言葉に、微かに歪んだ視界をばれないようにして、俺は右側の布団に潜り込んだ。