【浦島坂田船】花魁華誘唄.壱~青年期編~ (ページ9)

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# 5 (坂田side) ページ9

部屋へと入ると目に映ったのは、布で顔全体を覆っていて、手毬と黒猫が描かれている俺達よりも上等な素材の着物を見に纏った怪しげな奴。恐らく体格や着物の柄的に女。

それと猫みたいな癖っ毛の黒髪で、優しそうな目元をした細身な男性。この二人が座っていた。

男性はどうやら付き人らしく、女から一歩下がった場所で腰を落ち着かせている。

そして女の方だが…室内にも関わらず御高祖頭巾、と呼ばれるものをしていて目元以外は全く見えない。

でも…なんやあの目元誰かに似とる気がするんよな。

誰だったかな、と思わず凝視してしまいそうになるが今は飽くまでも陰間としてたち振る舞わなければならない。

裏やから目線合わせるのは控えた方がええよね。ていうか、この人がうらさんの言うように''楼主ですら頭が上がらない程の地位と金がある人''には思えへんのやけど。

それ以前に遊廓で被り物外さへんって、口吸いとかする時どないすんねん。

第一印象は得体の知れない人、この一言に尽きるのだが…胸の内を燻る、違和感の正体が引っかかって仕方がなかった。

＊

それからは御客が呼んでいた芸者達の三味線やら歌等を聞いて過ごす、普段通りの裏の流れだったのだが…なんというか、人選に品がある。

裏、というのは御客が財力を陰間に示す為に芸者を大人数、尚且つ派手な余興が出来る者を呼ぶものだ。

馴染みになる前なら、気に食わない御客は相応しくないと切ってもいい。それが俺達格子という高位に身を置いている陰間の特権。だから俺達陰間に気に入られようと財力を示す為に、そういった趣向で芸者を選ぶ。

…この御客が呼んだ芸者の人数はそこそこ。派手さもあまり感じはしない。

だが、芸者一人一人の質が良い。それが手に取るように分かる。

指先まで意識された優雅な舞、小手先の技術じゃ出し得ない三味線や琴の音、全く声が振れず歌詞に抑揚が自然と感じられる歌。

きっとこの女の趣向なんやろな。目先の華やかさよりも、聴いていて安らぐような心地良さをって感じやね。こんだけ質がいい熟練の芸者を何人も…それに、多分自分が見込んだ芸者しか呼んどらん。

当たり前だが熟練の芸者程金が掛かる。並の芸者を大勢呼び、派手さだけを見せつけてくる普段の御客より余程好感が持てる。更にその芸者を自ら選んだとなれば、人を見る目も確かだ。

馴染みにしたいかも、なんて。他の三人はどうか知らんけど、俺はこの御客気に入ったわ。