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「あ、そっか。ごめん、部屋着じゃない奏を見るとつい…」
そう言っては眉を下げて申し訳なさそうに肩を落とす彼方。やっぱり男なのに私より全然可愛い。
「仕方ない事だから落ち込まなくていいよ。彼等が来たら気をつけてね」
とんとんと肩を叩いてやれば、安心したのか彼はゆっくりと胸を撫で下ろし「分かったよ」と、頷いた。
…出来れば彼等にはこういった形で会いたくなかった。そもそも会う資格もない。けれど…どうしても、顔が見たかったのだ。
御客として来ているから偽りの、陰間としての彼等を目の当たりにしなければいけない。
そんなの苦痛だ。兄弟の様に慕い何年も時を共にしてきた彼らから、真など無いそういった扱いをされるのだから。
確かに時期花魁の位になると決まっている程の陰間になった4人は美しいのだろう。でも…そんなものに興味は無い。
あの暖かい、家族の温もり程美しいものなんてありはしないと分かっているから。
声は出さず顔を隠し、あちらは目も合わせない。けど、それでもいい。
…四人の前から姿を消したあの日からの、7年間という月日は埋まらないのだから。
着物の下で革紐に括りつけた札の御守りが揺れる。
ここを出てからもずっと首に下げていた、大切な御守り。
みんなはもう捨てたかな…なんて。
すると扉の向う側から「お待たせ致しました、翠葉、茈薇、朱桜、月百のおいででございます」と、禿の声が聞こえてきた。
襖が開かれ、入って来た男性四人。煌びやかな着物や装飾、それらに埋もれることなく映えた美しい容姿。筋張った腕と、布越しに垣間見える恰幅の良さ。
すっかり大人の男性になったんだな…四人とも。顔も体付きも男らしくて、何処と無く色っぽい。時期花魁候補と言われているのにも頷ける、立派な陰間の四人。
置いてけぼりにされたみたい。分かっていた、今更悲しむ事でもないでも…
彼等の首飾り。着物で隠したそれと同じ物が揺れているのを見た途端、目頭が熱くなった。
裏切り者と罵られても仕方ない、そう思っているのに。
ただ四人お揃いの御守りとして付けているだけかもしれない。
でも、五人の思い出だと、私も含まれているのだと、そんな気がした。
いや、きっとそう思いたいんだ。そう願っているんだ。
…我ながら、本当に図々しい事を…だけど…
その願いを断ち切れない私は、まだまだ自分に甘いみたい。
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蝶花 - 更新楽しみにしてます! (2020年12月19日 22時) (レス) id: 38881abff7 (このIDを非表示/違反報告)
まるさんフィーバー(プロフ) - 続きが楽しみです!!応援してます!頑張って下さい!! (2020年3月15日 23時) (レス) id: 2dfee1726e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:茅蜩 | 作成日時:2020年3月15日 18時