【浦島坂田船】花魁華誘唄.壱~青年期編~ (ページ7)

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# 3 (センラside) ページ7

「そこまでにしなんし。時期花魁候補とあろう者が情けありんせん」

凛としたうらたんの言葉が不意に鼓膜を揺さぶり、否が応でもその場が静まり返った俺と坂田。ほんまにいつもこう。

靱やかな指先を自身の頬へと添えると、はぁ…と僅かに溜息を零すうらたん。

連なる部屋から漏れた燈に照らされたその横顔は、同性の俺から見ても艶やかで菊の様に厳か。静かな美しさを醸し出していた。

老若男女問わずこの魅力に貢ぎたくなるんやろなぁ…けど、俺はこれより美しいものを知っているから。

うらたんに目移り出来るくらいなら、俺の恋路はこんなに険しくなっていない。どうしようもない程恋焦がれているあの子が居るから…なんて、戯言以外の何者でもない。

「失礼致しんした。御客が待ってありんすし、早く行きんしょう」

廓言葉で吐き捨てたその一言は謝罪の様に聞こえるが、俺にとっては戒めでしかない。

自分は下賎な男娼だと。どれだけ上位の陰間であろうと、誇り高くあろうとしても…そればかりは変えられない事実なのだと。自分に知らしめる。

…俺はずっと、こうして誰かに媚び諂う事でしか生きていけないんやろか。

そんな俺を何処かの部屋の篝火が、嗤う様に揺れた気がした。

＊

久々にこの遊廓の入口を潜ったが、何もかも昔のままで変わらない。変わったのは…楼主から受ける態度やあからさまな贔屓目、そんな吐き気がするものだけだった。

「社様、御気分が優れないのですか？」

「大丈夫だよ彼方。それより、ここでは社様呼びも敬語もやめてよ？お偲びで来てるわけだし、相手が正式に決まるまでは悟られたくない」

心配性で態々遊廓内まで付き添いで来てくれた彼、一ノ瀬彼方は落ち着かない様子で室内へと忙しなく目を向けていたが…流石という所か、息詰まっていた私に気付きそう言葉をかけた。

心配性の彼の事だ、きっと明日から始まる''御相手探し''の夜店廻りも気が気ではないのだろう。

五万といる従者の中で一番信頼を置いていて、冷静沈着で頭の回転も早い。その上容姿端麗の、まさに傑物。
でも意外と抜けている部分が多々あり、女性に対して奥手という愛らしい男なのだ。

しっかりしてください！って、いつもあの子に言われてるもんね。

もう一人の頼もしい従者を思い出しては、被り物の下でくすりと笑みを零してしまう私。

指名した彼等が来るまで待っていてくれと部屋に通されてから、やっと肩の力が抜けた気がする。