【浦島坂田船】花魁華誘唄.壱~青年期編~ (ページ4)

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【第1章待人来たる帳刻】(うらたside) ページ4

暖かな春の日差し。それが真上より少し西へと傾いてきている、現在は正午を少し過ぎた頃。

煙管を蒸かしながら景色へと目を向けていると、隣で行儀悪く俯(うつぶ)せに寝転んでいた坂田が口を開いた。

「なあなあうらさん、今夜の相手ってどんな人なんかな？」

「さあな。でも俺ら四人を纏めて買うくらいだ、相当な財産と地位があるんだろうな。何にせよ、やる事はいつもと大して変わらねえよ。ただ初会すっ飛ばして裏から、っていうだけだ」

ふ…っと煙を吐きながらそう答えてやるが、当の本人は「ふぅん…」と適当な相槌を打つだけであまり興味が湧くような返答ではなかった様子。

坂田がこういうのも分かるけど、正直俺も相手がどういう素性なのかという以前に名前や性別すら聞かされていないんだよな。

時は数日前に遡る。楼主の言いつけで四人揃って部屋へと訪ねると「数日後、とある一人の御客様を四人で相手をしてほしい」との話を受けた。

それだけでもかなり異例なのに、極めつけには初会ではなく裏からだという不信感極まりない内容。楼主の考えが読めなかった。

御客は何も会って即花魁を抱けるわけじゃない。直ぐに抱けるのは、切見世女郎などの位の低い者達くらい。
高位へと身を置くモノ達を抱きたいと思うならば初回、裏、馴染みと段階を踏まなければならないのだ。

初回は所謂顔合わせの様な物で、俺達男娼は御客と会話は疎か目も合わせない。勿論お酌等も下のやつに任せきり。

裏も二回目というのにも関わらず待遇は初回と同様。御客の懐の広さを試す為の二回、と言っても過言ではない。

まあ、金財力を見極めるっていうのが主な理由だろうけどな。二回会うだけでも大金をぶん取られるし。

そして晴れて馴染みになれると俺達の自室へと招かれ、酒を交わしたり肌を重ねたりといった事が出来る。
馴染み金を店へ払い、花床という俺たちに対しての御祝儀を渡したり兎に角金額が途方もない。それにも関わらず、だ。

勿論、楼主へ御客に関することを尋ねてみはしたが…聞いても答えてはくれず。

結局するべきことを伝えられただけ、相手の情報は皆無。

楼主が自分達全員で相手させる程の人物。とても頭が上がらない御身分なんだろうと、完結させるしか無かった。

恐らくだが初回を飛ばす代わりに何倍もの大金を…といった条件の元成立したのであろう。

大名ですら渋る程の額になるそれを、簡単に出せる身分。どんな奴が来るのやら…