【浦島坂田船】花魁華誘唄.壱~青年期編~ (ページ1)

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【序章】(坂田side) ページ1

『なぁ、いつかこの花街を五人で出られたら俺のお嫁さんになってや！』

もう何年も前のこと、十にも満たない齢の俺がなんの根拠も無いのにそんないつかを本気で信じて疑わなかった頃。

君は薄紅色の桜木の下でなんて言ってたっけ。確か…

『…そうだね、五人で出られたらね』

今思えば、君はわかってたんやろ。そんな日が訪れることがないと。その時にはもう。

同じ歳でも、精神的にはまだ自分より幼い俺が恋という感情を知らずに何となく、夫婦(めおと)になればずっと一緒にいられるなんて理由でそう言っているのだろうと、君は思い込んでいたんやろね。

でも、俺もそんなに子供じゃなかった。

君に淡い恋心を幼いながらも寄せている自覚はあった。本気で一生を共に過ごしたいと願って伝えた。

…まあ、本気にされず流されて、弁解しようとしたら他の三人に遮られてしもたんやけど。

「坂田何ぼーっとしてんだよ。もう夜店が開く時間だ、シャキッとしろ」

はっ、として後ろを振り返れば昔と顔付きは余り変わらず雰囲気と背格好だけが大人びたうらさんが、いつの間にか障子を開き仁王立ちしていた。

「ご、ごめんやんうらさん。ただ…昔の事思い出しとった」

そっと自分の首元へと触れる。首飾りに括り付けられた札のような御守りに指先で触れると、胸の奥が、心臓が、握り潰されてしまいそうな程苦しくなる。
鼻の奥がツンとして、瞳の奥に熱が込み上げてきて。脳裏に映るのはあの頃のまま変わらない彼女の姿。

俯いて見えた自身の手はあの頃より筋張っていて明らかに男の手をしていた。

君だけが、俺の記憶の中で今も昔も変わらない姿のまま。それが、7年という歳月が過ぎてしまった事実を知らしめる。