追憶の夢想−�� ページ43
呆然としたまま退院し、帰った。その時の僕は死人のような顔をしていたようだ。首や腕、胴体、足には色濃く傷が残っている。それが僕に"夢じゃないぞ"と教えていた。
加害者の僕が奇跡で生き残り、被害者の彼女は奇跡を授けられずに多分、死んだ。遺体の在処は分からないけど。
『僕は信じてないけど、神隠しとか起きるんだってさ』
「…神隠し」
まさかとは思った。そうだとしたら愛は神様の所で生きているかも、なんて。
そんな馬鹿な事考えるくらいには僕は疲れていた。
「行かなくちゃ…」
取り憑かれたように裸足で家を出る。神様の祠のあるあの崖までの道なら、覚えてる。あの時落ちた崖の後ろに祠があった。
「…！どこ行くの、遥斗くん！」
でも家を出てすぐ、愛のお母さんに捕まった。愛の家に連れられ、お茶を出され、何するつもりだったのか尋ねられる。
「愛の所に…行こうと、思って」
「何を言ってるの…だって愛は、」
「多分僕が殺したんだ…僕、があの崖で、」
「もういい。もういいから…っ」
思い出そうとすれば息が苦しくなる僕を、愛のお母さんはキツく抱き締める。僕はまだ愛がいなくなった事を、受け止めきれてないのに。
場面はまた切り替わる。
僕は愛のお母さんに馬乗りにされ、首を絞められていた。
「が…ｯ、ぎ、ァ゛…！」
「貴方が…貴方が、愛をッ！――貴方さえ、いなければ…！」
理性のタガが外れて憎悪にまみれた双眸が、ぼんやりとした意識の中でも視認出来た。でも僕の頬に落ちた雫の感触を感じて、すぐに首の圧迫感から解放された。
「あ――ｯ、ゲホッ、けほっ、は…ぁッ！」
咳き込み、思い切り息を吸い込む。少し落ち着き、頬の雫を拭う。雫の正体は、愛の母親の涙だった。
「ぁ…ごめ、なさ、私そんなつもりじゃ、――嫌、イヤァァアアアアっ！！」
「おばさん落ち着いて！けほっ、僕は大丈夫だから！」
頭を抱え、涙を流して彼女は叫んだ。何事かと慌てて来たご近所さんの通報で彼女が病院に連れてかれると、僕の罪は更に重くのしかかってきた。
彼女は精神を病み、その後は――…
僕の原罪。償っても償い切れない。後悔は止まらない。
「懐中電灯の電池の予備を持っていれば変わったかも？」
「天体観測に行かなければ変わったかも？」
「僕がいなければ良かったね」
――未だに自然によってついた傷痕が痛む。
『ハルは笑顔の方が好きだよ』
君の言葉が、呪いのように反芻する。
ああ、首が絞まるように苦しい。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 302人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「名探偵コナン」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
想世(プロフ) - トめAと@カド松さん» コメントありがとうございます。過去だけでもSAN値ゴリゴリ削られてますね… (2022年8月11日 9時) (
レス) id: 7931d7abb1 (このIDを非表示/違反報告)
トめAと@カド松(プロフ) - SAN値ヤバそう･･･ (2022年8月11日 7時) (レス) @page49 id: 8b7bdbc23e (このIDを非表示/違反報告)
想世(プロフ) - 深夜さん» コメントありがとうございます。帰省の際に何かしらの悶着はありそうですね。 (2022年5月29日 19時) (レス) id: 7931d7abb1 (このIDを非表示/違反報告)
深夜 - コレお母さんとひと悶着あるパターンかな?(フラグ) (2022年5月29日 19時) (レス) id: 19b009e4f4 (このIDを非表示/違反報告)
想世(プロフ) - 時凪さん» コメントありがとうございます。執筆の励みになります。これからも更新を頑張らせてまいります。 (2022年5月29日 18時) (レス) id: 7931d7abb1 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：想世 | 作成日時：2022年5月29日 16時
