悲劇のハッピーバースデー−�� ページ43
草木も眠る丑三つ時。
少年は物音で目が覚めた。
彼の母の作ったお気に入りのシチューパイで誕生日を祝われ、大好きな父に前々から欲しかったビッグ・ベンの模型をプレゼントされ、相棒のテディと共に幸せ絶頂で眠りについてから、数時間後の事だった。
「…パパ？」
幼気な少年は、まだ父親が遅くまで起きて何か作業をしているのだと予想した。前例はままあり、そして父の仕事場とも呼べる書斎に微かな明かりが見えたからだ。
幼心を携えた少年は、書斎の扉をそっと開く。こんな時間に起きたのか、もう早く寝なさい、と優しい叱責と共に、あの大きくて温かい手で頭を撫でられる事を期待して。
だが彼の父親は書斎の机に突っ伏して眠りこけていた。少年が書斎へ足を踏み入れようとも、ただ肩を上下させて呼吸するのみ。近付いて父の頬を突っつこうとした瞬間。
「――君のパパはどうやら疲れて眠っているようだから、そっとしておいてあげた方がいいよ」
家族の誰でも無い、知らない男の声が、少年の入ってきた入口から響いた。
「…おにいさん、誰？」
男は少年の知らない人間だった。男にしては高く、しかし女にしては低い中性的な声。なだらかに紡がれる言葉はまるで自分の為におとぎ話を読む母の声のように落ち着くが、帽子を深く被り込んだ不審人物を目の前に緊張の糸が解ける程、少年は人懐っこくなかった。
「お兄さんはね、君のパパのお友達。お仕事を手伝いに来てたんだ」
「…パパ、"今日はもうお仕事無いよ"って言ってたのに…だってぼくの誕生日だったから、お仕事をすぐに終わらせたんだって言ってたんだよ」
「わぁ、君の誕生日だったんだね。誕生日おめでとう。プレゼントは持ってきてないんだ、ごめんね。…ああ、飴ちゃんなら持っているよ。いるかい？」
「ううん、いらない。パパから、"知らない人からお菓子をもらうな"って言われてるんだ」
「そっか。君はお父さん想いのいい子だね」
帽子を被った男は少年に近付き、そして頭を撫でた。突然の行動に身が強張り、少年は父親を起こそうか迷う。
「…おにいさん、変なにおいする。臭い」
「そ、そこまで直球に言われるとは…」
子どもは残酷だね…とどこかしょぼくれる男に、少年は"このにおいは何か"と問う。
「ああ、これ？これはね――」
突如として、少年の住む屋敷中から爆発音と何かが崩れる音が鳴り響いた。
「――ガソリンのにおいだよ」
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想世(プロフ) - ネルさん» コメントありがとうございます。そのようにおっしゃっていただき、とても嬉しい限りです。 (10月30日 21時) (
レス) id: 7931d7abb1 (このIDを非表示/違反報告)
ネル - 最新話のイラストのコニャックの顔が本当に好きです！！闇のありそうな顔というか…！！ (10月29日 21時) (レス) @page28 id: 23ef5c5b40 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：想世 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/
作成日時：2023年5月26日 16時
