泣いて廃れたもしもの世界 ページ41
「…それまではそちらの要求を飲め、と」
「はい。では頼みましたよ。…ああ、そうそう」
本題を話し終え、コニャックは手すりから降りて二階の窓へ向かう。はためくカーテンに手をかけ、ふと思い出したかのように振り返り、彼は開口する。
「宗一くんに、何か聞かれました？」
「ああ。まるでコニャックが悪者に苛まれているかのように、昔話をしてくれたよ。沖矢昴を探ろうと」
「…意外と豪胆な事してるなぁ、彼」
「君がそうするよう仕掛けたのだろう？」
「当たりです」
悪びれもせず、返答が来た。
「――だって彼、鬱陶しいですから。ちょっとお灸を据えようと思いまして」
「…お灸？」
「じゃあ僕、もう行きますね。お邪魔しました」
良い夜を、と付け加え、煙に撒くように窓から飛び降りた。慌ててキャメルが窓へ向かい、どこへ向かったか探すも、もうその背すら見えない。
「追いますか？」
「いや、追わなくていい。…それより本当に手出ししないとも限らない。彼女の護衛を優先する」
「了解です」
彼女、と称された人物が一人の少女を差す事は、既に周知だった。
「また勝手に行動をして。ジェイムズから大目玉を食らっても知らないわよ」
赤井の仲間、ジョディ捜査官は小言を洩らす。赤井の行動は目に余るもので、それに対して諌めるも、当の本人には響かない。
「どの道捕まえようとしても、無駄に終わるぞ。コニャックは自他の命を粗末に扱う。手榴弾も恐らく本物だ」
「命知らずって事？でも流石にそう簡単に命を投げ捨てる真似は――」
「したさ。…それに取引した以上、もう一度尻尾を見せる筈だ」
しかるべきタイミングは果たしていつになるか分からないが、少なくともコニャックは再び赤井達の前に現れるだろう。
例え解放した後の宮野明美が生きていようが、死んでいようが。
「――捕まえるのはその時でいい」
「…！」
赤井秀一は冷静沈着な男である。どんな状況であろうと、どんな動揺に苛まれようと、決してポーカーフェイスは崩さず、虎視眈々と獲物を狙う孤狼だ。
そんな男が今、開眼してその鋭い目つきを熱心に窓の外へ向けている。心持ちが何にせよ、彼はコニャックを捕まえようと躍起になっているのだ。
だからこそ気付いた。一挙手一投足、そして唇の動きを抜け目なく観察していたから。
コニャックがスコッチを殺したと突きつけた際、小さく紡がれた言葉を、この場で赤井だけは読唇術で解読出来た。
『ぼくだって、しなせたくなんか』
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想世(プロフ) - ネルさん» コメントありがとうございます。そのようにおっしゃっていただき、とても嬉しい限りです。 (10月30日 21時) (
レス) id: 7931d7abb1 (このIDを非表示/違反報告)
ネル - 最新話のイラストのコニャックの顔が本当に好きです！！闇のありそうな顔というか…！！ (10月29日 21時) (レス) @page28 id: 23ef5c5b40 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：想世 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/
作成日時：2023年5月26日 16時
