怪しさ満点のご都合主義−�� ページ37
「あっ…ご、ごめん。ボクもう帰らなくちゃ！」
「ああ。気を付けて帰るんだぞ」
「うん！」
コーヒーごちそうさま、とコナンはいつもの無邪気な子どもを演じて、我が家を出る。それを見送る赤井は、沖矢の顔で笑った。室内には沖矢以外に人はいない。
現時点では、誰も。
沖矢昴は料理好きである。
…というのが都合の良い表の設定だ。赤井秀一自体は料理を趣味とする程に好みである訳でも、ましてや安室並みに得意でもない。
だが設定を守る為に、ある程度の上達は必要だ。そして今夜も沖矢はふるいをかけ、上々の満足感を与える晩御飯を作った。
それは、その晩御飯を平らげた後の話。
「――他人の家に勝手に入るなんて、不法侵入として通報いたしますよ」
気まぐれに入った書斎の窓から見える景色は、夜の為に月が上り、そして外と中を隔てる筈のガラスは無かった。カーテンが風に揺れ、侵入者のいる方へはためく。
侵入者は深く帽子を被っていた。二階の手すりに腰をかけ、誰かを待つように足を組み、一階へとその身体を向けていた。少し態勢を崩せば一階へ落下してしまうというのに、彼は呑気にも決められた口角の上げ方をして笑っている。
「それは困りますね。互いの為にならない」
男は帽子のつばに手をかけ、沖矢を見下ろした。
「一体何の真似でしょう？――青木さん」
「おや、貴方は僕のもう一つの名前を知っている筈だ」
「…ご存知ありませんね。貴方は青木遥斗さんであるとお伺いしましたが」
妙に見透かした口調で、コニャックは決めつける。
「僕は青木遥斗です。でもコニャックでもある。それを知らない貴方ではないでしょう、赤井秀一さん」
「…つい最近、同じ間違え方をされましたね。余程私と似ているのでしょうね、その赤井秀一さんとやらに」
「いいえ、噴き出してしまいそうになるくらいに似ていませんよ。だって組織から隠れる為のカモフラージュが本人と似ていたら、疑われやすいではないですか」
コニャックは沖矢昴が赤井秀一であると、絶対的な自信を持って思い込んでいた。それは事実だったが、沖矢は全力で誤魔化す他あるまい。
だが、その弁明の余地すら与えられなかった。
「昼、ここに阿鳥宗一くんが来ましたか？」
「ええ、来ましたよ。話をしようと誘われまして」
「ふぅん…まあ、いいんです。その話は後にして、本題に入りましょうか」
「…本題？」
沖矢は尋ね返す。コニャックは頷いた。
「取引をしましょう」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 62人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
想世(プロフ) - ネルさん» コメントありがとうございます。そのようにおっしゃっていただき、とても嬉しい限りです。 (10月30日 21時) (
レス) id: 7931d7abb1 (このIDを非表示/違反報告)
ネル - 最新話のイラストのコニャックの顔が本当に好きです！！闇のありそうな顔というか…！！ (10月29日 21時) (レス) @page28 id: 23ef5c5b40 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：想世 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/
作成日時：2023年5月26日 16時
