手遅れな分岐点−�� ページ30
赤井は語る。
かつて、組織に潜入していた際――ライとしての記憶を、手繰り寄せて。
――時は二年前。
スコッチの死を引き金に、ウイスキートリオは分たれた。残された二人の接点は互いの噂のみ。彼らの雑用を担っていた倉間遥斗とも連絡つかず、関わりは絶たれたかのように思えた。
それは一人のネームドが成り上がり、噂が広まり始めた頃の話。
「――合同任務？」
着々と名を上げるライの元に、指令が届く。内容は実に単純明快、狙撃の命令。それも最近話題の名持ちと協力しての。
ライは司令書に目を通す。疑った目は確かだと認識し、協力相手の酒の名を読み上げた。
"コニャック"、と。
彼の噂は魑魅魍魎ばかり。机上の空論ばかり唱える夢想家が広めたのではないかと思う程、どれもこれも馬鹿馬鹿しい。
まるでその噂は、誰かに意図的に流されているかのように。
実際にライがコニャックと会うと、その噂の信憑性は更に落ちた。
「お久しぶりですね、ライ」
「…倉間君？」
「ああ、覚えていてくれたんですね」
嬉しいなぁ、と喜色を浮かべる青年にライは見覚えがあった。忘れようもあるまい、彼はスコッチを死へ追いやった人間なのだから。
「…コニャックというのは」
「お察しの通り、僕の事です。ご健勝そうで何よりですよ」
久々の再会を果たしたコニャックに、ライは内心で困惑した。
――誰だ、こいつは。
ライの記憶を探る限り、倉間遥斗という男は根は素朴な小市民であり、そして心の片隅では常に何かに恐れている凡人だ。スコッチのあの世への案内人だが、侮りさえしなければ取るに足らぬ男なのだ。
だがライはその鋭利な双眸を細め、観察する。
昔は見なかった、帽子を被った黒髪の中性的な男の不自然な笑顔を。
「お互いに自己紹介は不要でしょうが、何か知りたい事があれば何でも聞いてくださいね。何でも答えるとは限りませんが」
「…なら一つ、聞きたい」
「はい、何でしょう？」
ライは質問のチャンスに、問わずにはいられなかった。翡翠の二つ目は相手を捉える。低い声が喉を通る。カサついた唇は息を滑らせる。
聞きたい事はいくらでもあった。倉間遥斗、コニャック、もしくは両方へ。しかしライは実直に、真っ先に頭へ思い浮かんだものを問うた。
「――君に、一体何があった？」
コニャックの変貌ぶりについて。
その質問を、恐怖がぽっかりと抜け落ちた破顔の彼が答えた。
「…色々ありましたよ」
丁寧に、言葉に重みを込めて。
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想世(プロフ) - ネルさん» コメントありがとうございます。そのようにおっしゃっていただき、とても嬉しい限りです。 (10月30日 21時) (
レス) id: 7931d7abb1 (このIDを非表示/違反報告)
ネル - 最新話のイラストのコニャックの顔が本当に好きです！！闇のありそうな顔というか…！！ (10月29日 21時) (レス) @page28 id: 23ef5c5b40 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：想世 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/
作成日時：2023年5月26日 16時
