哀色のサバイバーズギルト−�� ページ41
組織の壊滅時に、実はAPTX4869のデータを入手していた。私でも覚える事の出来なかったその膨大なデータがあれば、完全な解毒剤を作る事は可能になる。…作る気になれたら、の話だが。
(江戸川君には悪いけれど…)
今は何をやってもダメ。
買い物に行ったって、ご飯を作ろうとしたって、お風呂に入ろうとした時ですら心ここにあらずといった様子だったらしい。実際、今までどんな風に日常生活を送っていたのか思い出せない。今まで通りに出来ない。そんな調子で解毒剤を作ろうとしたって、うっかり毒薬を作ってしまうかもしれない。
学校にも行けてない。子ども達に会う気にもならなかった。現にこの前、心配した彼らが家に訪ねてきたけれど、結局上の空のままであまり心の曇りは晴れなかった。
「はぁ…」
心にぽっかりと穴が空いたような喪失感に振り回される。時折それを満たそうと彼を思い出すけど、結局虚しくなるだけ。毎日、無意にそんな日々を繰り返している。
(…あの時)
あの時私だけ逃げずに彼と共に立ち向かっていたのなら、何か変わっていたんじゃないのかしら。
実際には足手まといだっただろう。けれど私はそう考えてしまって仕方がない。爆発を止められたかもしれないし、無事に救出が間に合って助かっていたのかもしれない。私だけ安全圏になんて行かない方が――…
「…っ！」
罪悪感が私を蝕む。
ああ、いっそ犠牲になっていたのが私であれば。
そうしたらお姉ちゃん達にだって会いに行けたのに。
『――ありがと』
最後に聞いた貴方の言葉が、耳にこびりついて離れない。恐怖を押し殺そうとして、殺し切れずに震えていて、でも優しかったその声を忘れられそうにない。
最愛の家族も、想い人も、既に遠い所へ。それなのに、どうして私はここにいるのだろう。
「…どうして私なの」
神様や運命というものを、呪わずにはいられなかった。
「どうして――…！」
彼の嘆願を思い出す。人生から、運命から逃げるなと、バスジャックの爆発の際に私を助けた時に言った言葉を。
(これが貴方の言う私の"運命"だと言うのなら、私は運命なんて呪ってやるわ)
行き場を無くした怒りは、やがて概念へと矛先が向く。たらればの夢想へと思考が倒錯してしまう。だってそうでもしないと、バカなマネを試みてしまいそうになってしまうから。
(――ひょっこり現れて、"実は生きてた"だなんて言ってくれないかしら…)
バカなことは、考えていたけれど。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 117人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
想世(プロフ) - みそらーめんさん» コメントありがとうございます。元ネタはとあるボカロ曲ですね。応援もありがたいです、色々と落ち着いたら更新頑張りたいと思います。 (2023年1月22日 9時) (
レス) @page46 id: 7931d7abb1 (このIDを非表示/違反報告)
みそらーめん - 元ネタの元ネタが人間失格、、、！何となく分かるような、、、？この作品、大好きです。体には気をつけて更新頑張ってください。 (2023年1月22日 8時) (レス) @page47 id: c05dcaa337 (このIDを非表示/違反報告)
想世(プロフ) - 早桃さん» コメントありがとうございます。気に入って頂けたのなら何よりです。これからも更新頑張らせて頂きます。 (2022年12月18日 18時) (レス) id: 7931d7abb1 (このIDを非表示/違反報告)
早桃 - やばいめっちゃ好き、、、！面白すぎて一気に読んじゃいました！！独特な世界観が個人的にツボです笑 これからも無理せずに更新頑張って下さい！応援してますぅぅぅ！大好き！ (2022年12月18日 17時) (レス) id: f9af42ef58 (このIDを非表示/違反報告)
想世(プロフ) - せいあさん» 再度コメントありがとうございます。自分でも驚きですが、名残惜しくも次作で本編完結となります。どうぞ最後まで楽しんで頂けると幸いです。 (2022年12月1日 21時) (レス) id: 7931d7abb1 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：想世 | 作成日時：2022年12月1日 18時
