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「六月?十月じゃなくて?」
ということは、俺が初めて会った時より、四ヶ月も前からということだ。
六月末、たしかに過去に対するネガティブな気持ちや学校での息苦しさを持て余していた俺は、解放感を求めて、ひとりでここに来た覚えがある。
え?
じゃあ、俺は寝ていたとはいえ、その時に一度会ってるの?
それに、ウソツキさん、それから毎日のようにここに来て、ずっと待ってたってことは……。
「もしかして、俺にひとめぼ……」
「寒い。もう十二月だから、春までは屋上禁止にして俺の部屋にしよう」
わざとらしくそう言って、急に立ちあがるウソツキさん。
「ちょっ……ウソツキさん、最後まで教えてください」
と追及するも、
「あー、寒い寒い」
と言って俺の手を握り、屋上の扉まで引っぱっていく。
俺はもうちょっと聞いてみたいと思ったけれど、その照れたうしろ姿が年上なのに妙にかわいく思えて、そのまま引っぱられることにした。
ウソツキさん、あのね。
俺、なんでウソツキさんからもらったチョコレートだけ、おいしさと効果がちがうんだろう、ってずっと思ってたんだ。
でも、途中で気付いた。
ウソツキさんからもらうから、おいしくて効果があったんだって。
俺にとってのお薬は、結局、ウソツキさん本人だったんだって。
俺にくれるために毎回買ってきてくれていたチョコレートも、パーカー越しに抱きしめてくれた温度も、俺に見せてくれたあの雨の日の本音も、蕁麻疹が治るまでそばで待っていてくれるって言った、あの言葉も、全部……全部。
「へへ」
俺にとっては、これ以上ないお薬だったんだ。
「なに?」
「ウソツキさん、ウソつきじゃなかったですね」
「なんで?」
「言ってました。自分は“ネコの運命の人”だって」
二回目に会ってウソツキさんの名前を尋ねた時、ウソツキさんはたしかにそう言ったんだ。
「ぶ。もういいから部屋入ろ」
五階に着き、部屋のドアを開きながら答えをはぐらかすウソツキさんに、俺は「アハハ」と笑ってしまった。
「あんまりからかうと、あとが怖いからね」
「え……」
手を引かれて中へ入れられる俺。
ドアがゆっくり優しい音を立てて閉まった。
Fin.
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作者名:ぴよ | 作成日時:2020年9月29日 12時