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俺は、そうだったんだと思いつつ、なにも言えなかった。

ていうか兄ちゃん、勘違いとはいえ“子どもに飴玉”なんて紛らわしい例え話、使わないでほしい。

心の中でそう思って、兄ちゃんにちょっとだけ恨めしい視線を向けた。

なにが問題なのかわかっていない兄ちゃんは、ひたすら首を傾げていたけれど。




「じゃーね。お邪魔しました」




話に区切りがつくと、ウソツキさんはそう言って、俺の制服の袖を引っぱった。

それを見た兄ちゃんは、




「おいっ、涼介をどこに……」




と、ちょっと焦った声で呼び止める。




「上。大丈夫、なにもしようがないから」




「あっ」




目を丸くして、手をこちらへ伸ばしたまま固まる兄ちゃんの顔が、閉まりかけたドア越しに見えた。

ウソツキさんは勝手に玄関のドアを閉めて、エレベーターのほうへをまた引っぱっていく。

エレベーターに乗りこむと、「こら、伊野尾!六時までには家に帰せよ、絶対!」と玄関のドアを開け直して叫ぶ兄ちゃんの声がしたけれど、ウソツキさんが即座に閉じるボタンを押し、ヒラヒラと手を振ったところでドアが閉まった。




「…………」




「いいお兄さんをお持ちで」
 
ちょっと疲れたようなウソツキさんは、はぁっ、と小さなため息をつきながら俺を横目で見た。




「まだ疑う?」




「いえ……もう……」




ウソツキさんの言葉に俺はごにょごにょと小さい声で答える。

彼女はいない、って言っていたのを信じなかったことが、今さら面目なくて仕方ない。

卒論にしても早とちりをしてしまって、はずかしすぎる、俺。

そんな反省をしているうちに、五階に着いた。

屋上へ向かうとばかり思っていたけれど、ウソツキさんは自分の部屋の鍵を開けている。









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設定タグ:山田涼介 , 伊野尾慧 , いのやま   
作品ジャンル:恋愛
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作者名:ぴよ | 作成日時:2020年9月29日 12時

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