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“原因も話したいんなら聞くけど”
別の時にウソツキさんが言った言葉もよみがえる。
いや、話していない。
あの時、俺はそのまま原因をなにも説明しなかった。
有岡くんにメールを見られたことを話した時も、そこまで掘りさげては話さなかったし。
――コンコン。
「わっ!」
ただでさえ動悸が激しくなっていたところにノックの音が聞こえ、咄嗟に驚きの声をあげる。
「あ、ごめん。びっくりさせちゃった?俺だけど」
カチャリとドアが開く。兄ちゃんがひょっこり顔を覗かせた。
「なんだ、兄ちゃん。今日はこっちで食べるの?」
またもや考えごとに浸りすぎて、兄ちゃんが家に来ていることに気付かなかった。
「ああ、今日はバイト休みだから」
兄ちゃんはにっこり笑う。
その顔を見てつられて微笑んだけれど、胸の奥にはモヤモヤした灰色のなにかが残ったままだった。
やがて、母さんが帰ってきて、三人で食卓を囲む。
やはり、ふたりで食べるよりも三人で食べるほうがいい。
俺は先ほどの疑問をとりあえず頭の隅に追いやって、家族との会話を楽しんだ。
「あー、お腹いっぱい」
「お風呂も入って帰れば?」
「んー、どうしよっかなー」
リビングで兄ちゃんとテレビを見ながら他愛もない話をする。
母さんはキッチンで鼻歌を歌いながら皿を洗っていた。
「そういえば、涼介、チョコの暴食はちゃんとやめたか?」
「あぁ、うん。もう大丈夫だよ」
「心配させるなよ。なにか悩みがあるなら、ちゃんと外に出すこと。俺も母さんもいるんだし」
ハハ、と笑う俺。
今は聞いてくれる友達がいるんだよ、と心の中で思った。
それに、ウソツキさんも……。
そこまで考えて、思わず心と頭にブレーキをかける。
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作者名:ぴよ | 作成日時:2020年9月29日 12時