38.ミントと雨のリズム ページ9
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「さ……くらいさん……」
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ゆっくり振り返ると、そこには咄嗟にコンビニで買ったものなんだろう。
ビニール傘を挿した櫻井さんが、私を真ん丸い目で見つめていて
ザァザァと容赦なく降り続ける雨。その優しい声にぷつん。と何かが切れて
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私は、豪雨に紛れて、雨の中なら。こんなに髪が濡れて、顔に張り付いているような状況なら
きっと気づかれないだろう。って思って、何かが崩れ、壊れたように、子供のように涙を流した。
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ーーー…なんで、なんで、なんで。
名前を呼ばれた時、心の中で期待したんだろう。もしかして、って、心が跳ねたんだろう。
彼が好きなのは、私の妹なのに。
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あぁ、きっと。この前は、改札前まで走って。電車を抜け出して、追いかけてきてくれたから。
そんなことを都合よく今思い出して、期待したんだ。馬鹿だな、私。今とあの時とは状況が違うじゃない。
…心が、跳ねちゃいけないじゃない。
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翔「ちょ…、どうしたの。びしょ濡れじゃん、ほら入って！風邪引くよ…って、…え？」
「さくらいさ…」
翔「…泣いてるの？」
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信号の前。行き交う人々。そんな人々は、私たちがどこで止まっていようが見向きもしない。
そんな当たり前の景色が、今は心に突き刺さるように痛い。
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引き寄せられた肩。ビニール傘の、半径何センチ？ってほどに近づいた、櫻井さんとの距離に
少しだけ戸惑うけれど、櫻井さんが何も聞かずに、ただ肩をポンポン。と
まるで赤ちゃんをあやすように、リズムを刻みながら優しく微笑むから。
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「……、ぅくっ」
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夜。空も何かきっと悲しいことがあったんだろう。私なんか勝ることない大声で涙を流して、私を打ち付ける。
私もそれに負けじと、櫻井さんに縋って、スーツの襟元を掴んで、それに唇を寄せて
ふわん……、と香る櫻井さんのミントの匂いを感じながら、唇を噛み締めて、感情を押し殺す。
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もしも、願いが叶うなら。
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神様お願い。時間を止めて欲しい、って言ったなら貴方は笑うのだろうか。
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