35.奏(かなで) ページ6
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ーーー…手を。
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「…え……？」
智「…ごめん。俺、嘘ついた」
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手を。掛けた、のはいいものの。
私のその手首はいかにもアーティストです、って感じの大きな手が掴んでいて
私はその手の持ち主を、大きく見つめる。それに対してその手の持ち主は、困ったように笑った。
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…笑った、のなら。
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奏美「…お姉ちゃん」
「…へ」
智「……」
和也「A？…と、誰アンタ」
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私が手をかけていた襖が、勢いよくガッ！と開かれて
開かれたのなら、目の前には幼い頃からよく知っている、私とそっくりの顔の持ち主が、1人。
その後ろには、目を真ん丸くした顔をしている恋い焦がれている人が、1人。
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私の思考回路は、瞬時にショートする。
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「ぇと…、その」
智「…俺が頼まれたの」
「…え？頼まれた？…誰に？」
智「…奏美」
「…は？」
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“奏美”
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智くんが、その柔らかな声で、智くんが。奏美って言う名前を呼んだだけで
私はなんだかモヤモヤし始める。なんなの、これ。…奏美奏美、って。なんなの？
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奏美「…ありがとうございました、智さん」
智「どーいたしまして」
「ちょっと待ってよ。なんなの、これ。意味がよくわからなーーー……」
奏美「私が頼んだの、お姉ちゃん」
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奏美はそう言うと、取り敢えず他の人の目が気になるから、と言う理由で私たちを部屋に招き入れ
私は何がなんだかまだよく分からないまま
一つの長方形のテーブルを、私と智くん。奏美と大野さんの向かい合わせで囲む。
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奏美「…あのね」
「なに」
奏美「…お姉ちゃんが、私のLINE、見ないから…。その、ね」
「なによ」
奏美「智さんに頼んで、今夜ここに来てもらおうと…」
「智くんと知り合いなわけ」
奏美「うん…。あの、バイト先の常連さんで」
「こんなこと頼めるような間柄なわけね？」
奏美「…それは、その」
智「うん、そうだよ」
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隣で智くんが、私に責め立てられてる奏美を援護するようにそう優しく話しかける。
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…だから、お姉ちゃんは嫌い。
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