58.三兎を追う者は一兎も得ず…kazu ページ29
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明るく見送ったはずだったのに、上手く笑えてなかったかな。ってつくづく俺は後悔していた。
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全部、俺が悪い。
白黒着けれない、イイ歳した男が自分の気持ちがわからないからって
2人の女性を秤にかけてるんだから。んなの、俺が全部悪い。
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Aを見送った、翌朝。
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和也「ノセ。おはよ」
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ぷかぷかと浮かぶノセに、いつも通り話しかけてみると。
俺の心臓はポーカーフェースの表情とは裏腹に、どくどくと不気味な音を奏でる。
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和也「…ノセ。なんでかなぁ…、なんでお前までいなくなっちゃうかなぁ…」
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昨日までは瀬野Aって言う、もう一人のノセ、に世話されて元気だったのに
Aがいなくなったことが分かったんかな。だったら金魚ってすげぇ頭いいじゃん。
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ぷかぷかと水面に浮かぶノセ。いつもと違うのは元気いっぱいに動き泳がないこと。
餌を食べないこと。…命が尽きたこと。
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和也「欲張りすぎたんかな…」
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瀬野も欲しい。セノも欲しい。ノセも欲しい。
あれも欲しい。これも欲しい。これは人間的な欲求なんかじゃないのかなぁって思ってたのに
『それは違うよ』って否定するように、ノセが浮かぶ。
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和也「…ありがとう」
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会社に行く前に、そこの土に埋めるから。俺が支度を済ますまで、少し待ってて。
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俺は昨夜、泣きそうな顔をしていた瀬野ーーー…Aが綺麗に片付けてくれたクローゼットを開いて
スーツに着替えて、出来るだけAが掃除してくれた跡を消さないように
女々しいかもしんないけど。こんなことすんなら、Aが好きなんじゃないかって思うけど
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それは、なんか違う。
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和也「…うっし」
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俺はスーツを羽織って。カバンも握ったら。
ノセがうちにやって来た時に入ってた、金魚袋にまたノセを入れて
きちんと埋めてやる為に、少し早めに家を出た。
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