44.好きな歌はなんですか？ ページ15
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「せっかく買ったばっかりなのに…」
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階段を降りてる時には、まだ半分より上ほどあったミネラルウォーターが
今では走った勢いで溢れてしまったんだろう、半分の下以下になっていて。
私は憂鬱な気持ちを抑え込み、もうガッラガラの車内を見渡して適当に近くの席に座り込む。
周りは人がいないから助かる。ざっと見渡しただけで、同じ車両には2、3人しかいないし。
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私もポケットの中のスマホを取り出して。もう残り少ないミネラルウォーターを一気飲みしてから
スマホの電源を入れると、そこには『智くん』って言う文字が気持ち悪いほど入っていて
私は思わず、反射的に怖くなって不在着信の履歴を一斉消去した。
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まぁ…、智くんには追い追い連絡するとして。奏美は…、ちょっとしばらく会いたくなよなぁ。
でも、帰ったら必ず会いそうな予感してる人がいるんだよなぁ。
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別に顔を合わせること自体はどってことないんだけど、今は正直前みたいに話せる自信がない。
多分変に意識して、逆にギクシャクしちゃうだろうし…。
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はぁ…。って溜息を吐いて、カバンから最初から付属品として付いていたイヤホンを取り出して
最近好きな音楽を聴き始める。
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「…、二宮……かず…なり」
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そう、ボソッと。本当にボソッと小さく呟く。この歌、二宮さんっぽいんだよなぁ、って思いつつ
目を閉じて、電車に揺られていると。
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突然不意に、パッ！と左耳から大好きな歌が離れていって
私の手からは握っていたはずのスマホの感触が急に無くなる。
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へっ、なに！？って閉じていた目を開けると、まず初めに視界に入ってきたのは見慣れた靴。
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ドクン……。と血が騒ぐ。
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和也「へぇ…。意外なの聴いてんのね」
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そして、目線を上にあげて。…吊革を握って目の前に立つ人を、見つめる。
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「に…のみや……さん…」
和也「『二宮和也』って。…さっき、呼んだでしょ？」
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私の視界いっぱいに映り込んだのは、そう得意気に笑った二宮さんと
彼に外されて、ぷらーん…と左側に揺れている白いイヤホンだった。
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