第1話『探偵と助手のある春の休日』 ページ2
＊鹿乃子side＊
春はあけぼの
と言えど、
あまりの心地良さに目覚めれば1時間の寝坊。
しかし今日は休日だからと自分を甘やかす私は、とある探偵の助手を務める浦部鹿乃子と言うものです。
私はウソが分かるという不思議な力を持っていること以外取り柄のないただの田舎娘ですが、
その力のせいで色々あって故郷を離れ、
今は探偵稼業を営む"祝 左右馬(ｲﾜｲ ｿｳﾏ)"という先生にお世話になっている日々です。
先生は私を色んな面で救って下さった恩人でもあります。
探偵としての先生は、鋭い洞察力と冴えた推理力で真実を見つけ出す姿がとても頼もしく、私の憧れです。
(なので、)
「お金だーい好き！！ありがとうお金さん！！」
茶封筒を両手に右往左往と落ち着きのないこの人が、難事件を解決するあの素晴らしい先生だなんてちょっぴり信じられません。
「先生！あんまり大きな声で言わないで下さい！外にまで漏れちゃいますよ！」
私の一喝は先生の緩みきった笑顔を凍らせることなどなく、ふと動作を停止させるだけだった。
センター分けの茶色い髪がほんの少し先生の頬を掠める。
窓から差すうららかな春の日差しが、すました時の彼の端正な顔立ちに明瞭な影を落とす。
するとすぐにまた大きな瞳が嬉しそうに弧を描く。
「仕方ないじゃないか〜この喜びはどうにも抑えられないよ！ね、何に使おうか？やっぱりこの季節なら三色団子とか桜餅とかどう？筍の炊き込みご飯もいいよね〜」
「あ〜いいですねえ、って、ちがーう！！」
うっかり春の幸に気を取られた私は先生のいつものペースに巻き込まれないよう、現実の厳しさを思い出す。
「そのお金で今月分の家賃を払いますよ、先生！」
私の一言で一気に気分を落とし、口をへの字に曲げる案の定の反応。
「あのね、春の食べ物は春の内に食べないと一年は食べられないんだよ？鹿乃子くん、賢明な判断を下そう。さあ、後悔しない内に春の食の旅へ！」
目を輝かせて事務所のドアを開けようとする先生の手からサッと茶封筒を取り上げる。
返せと手を伸ばす先生を背に、私は中に入ったお札を取り出す。
「わ、家賃ぴったりですよ！これは家賃に使えという神の思し召しだと思いませんか？」
少しわざとらしく言ってみせると、また子供のように口を尖らせて否定する先生。
「思いませーん。」
「今日働けばその分何か食べれますよ、家賃の心配をせず食べるもの程美味しいものはないと思います！」
(続く)
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作者名：のと丸 | 作成日時：2020年8月11日 21時
