五十話 ページ3
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周囲の話し声と、子どもたちの元気な声をBGMに館内をゆっくりまわっていた。
水槽の中を見て、掲示されてる生物の説明を読んだり。時々突っ込んでくる子どもをほっこりしながら見守ったり。たまにチラっと怜さんの横顔を眺めたり。
何度目かの子どもが突っ込んできた後、不意に右手が包まれた。条件反射でビクってなったけど、すぐに怜さんの左手だとわかり右手に力を込めた。
今、怜さんと、手を繋いでる。好きな人と、手を。
ぎこちなく空いていたふたりの間が、距離がゼロになる。
心臓の高鳴りが止まない。手汗とか、大丈夫かな。
「…そろそろ、イルカショーの時間やって。行く?」
『うん、行く。』
さっきより明るいショーの会場。来るのが遅かったせいか、端の席や、真ん中から後ろの席はほぼほぼ埋まっていて座れそうもない。
空いてるのは前の方の真ん中の席と、後ろの立ち見席。
ちょっと迷って後ろに行こうとすると、手に力を入れて止められた。
「ちょっと、どこ行くん」
『え、どこって立ち見席に…』
「折角イルカショー見るんやから、前行こうや」
『…前にいると濡れそうだよ?』
席の背もたれや通路に、この席まで水が飛ぶ可能性があります、と注意書きがあるし、前の方では飼育員さんが歩いてイルカやアシカ柄のビニールシートを販売している。
「シート使えば大丈夫やろ、楽しまんと損やで」
『…それもそうだね。濡れたらその時はその時だ!』
席に座り、ビニールシートを買う。広げてみると結構大きいけど、大人ふたり入ってちょっとだけ余裕あるかな?って感じ。
まわりは家族連れが7割、カップルが2割、空席が1割。
…私たちも、まわりからカップルに見られてるのかな。
だとしたら、嬉しいような気恥ずかしいような。
「みなさんこんにちはー!!!」
飼育員さんの元気な声で、ショーが始まった。
『楽しかったね〜!』
「イルカもアシカも頭ええよなぁ」
『ほんと、拍手したりクルクルまわったりジャンプしたり…』
「シートのお陰で濡れんくて済んだやん」
『だね、シート買って前の席行って正解!』
感想を言い合いながら会場を出て順路に戻る。
手は、離れたまま。
もう繋げないのか、寂しいなぁなんて思ってたら、一歩前を歩いていた怜さんが振り返った。
「…ん」
出された左手を、優しく握り返した。
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まうる - トンママがトンママしとる......... (2019年9月9日 2時) (レス) id: a48c43d4d7 (このIDを非表示/違反報告)
yanochin(プロフ) - 和夢さん» コメントありがとうございます!一応次のお話で書くつもりですが、本人から辛いから聞いて知ってる感じです!童貞のはずなのに完全にママで性別が迷子です! (2019年6月7日 22時) (レス) id: 2c796d6a97 (このIDを非表示/違反報告)
和夢 - トントン…最初に女の子の日って気付くなんてお前童貞やないのか!? (2019年6月7日 17時) (レス) id: 926cbb72e4 (このIDを非表示/違反報告)
yanochin(プロフ) - 黒月(ブラックムーン)さん» 全然大丈夫ですよ!体も負担かからない程度に頑張ります。ありがとうございます! (2019年6月1日 3時) (レス) id: 2c796d6a97 (このIDを非表示/違反報告)
黒月(ブラックムーン)(プロフ) - yanochinさん» 今改めて自分の文面見たんですけどうるさいですね...。更新頑張って欲しいですけど、体壊す人も居るみたいなんで無理しないようにしてくださいね~ (2019年5月31日 22時) (レス) id: 75155c2af0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:yanochin | 作成日時:2019年5月27日 20時