嘘つきな君へ (ページ37)

今日:21 hit、昨日:7 hit、合計:166,206 hit

３７（Fside）ページ37

その日は本当に突然やって来た

いつも通り玄関まで俺を見送りに来る宏光

「今日は帰り、遅いの？」

「うん。今日は会議が入ってるから…少しだけ残業になるかな。」

会議は苦手だ

ダラダラと続く会議にいつも途中で逃げ出したくなる

憂鬱な顔をしたのを見破った宏光が

「そっか。じゃあ、太輔の好きなもの作って待ってるから、会議頑張って来いよ！」

クスクス笑いながらそう言った

「ホント？」

「うん。何が良い？」

「そうだなぁ…。カルボナーラ…、いや、ハンバーグかな。いや、ちょっと待って…！」

少しずつ俺好みの味を覚えて来た宏光が作る料理はどれも絶品だ

一生懸命悩んでいたら

「んふふ。決まったらさ、LINEして。」

俺を見上げる宏光はまるで、俺の可愛い嫁さんだ

「分かった♪じゃあ、行ってきます！」

「いってらっしゃい！」

本当にいつも通りだった

もうすぐ昼だと言う頃…

「あれ？宏光だ。」

「え？ミツから？珍しいね。」

渉が言う通り、仕事中に電話を掛けてくるなんて珍しい

「あ！晩御飯のメニューLINEするの忘れてた！！！」

「何だ、それ。新婚か！(笑)」

渉がクスクス笑ってる隣で、軽い気持ちで電話に出た

「もしもーし。宏光、ごめんごめん。夕飯だよね？」

『………たぃ…』

何か様子がおかしい

「…宏光？」

問いかけた時、電話の向こうから聞こえて来たのは…

『はっ…はぁっ…っつ……たぃ…たい…すけ…』

宏光の苦しそうな声

「宏光っ！？」

『はっはっ…っく…んっ……あぁっ…！』

「すぐ帰るから！電話そのままにしてて！」

発作だ

すぐ分かった

すぐに宏光の傍に行きたくて、咄嗟に立ち上がって部屋を出ようとした俺を、渉が慌てて引きとめた

「待てっ！！！どうした！？太輔！！」

「宏光が…！多分、発作…！」

「えっ？！…分かった。会社の事は俺に任せろ。」

「渉…宏光は…」

「救急車、呼んでおくから、太輔は早くミツの所行ってやって。」

肩に置かれた渉の手を無意識に掴むと、渉は『大丈夫』と言う様に頷いてくれた

「ありがと！」

エレベータを待つのももどかしくて階段を駆け降りる

飛び乗ったタクシーの中、電話から聞こえる宏光の声が、段々小さくなっていた

.