嘘つきな君へ (ページ29)

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２９（Fside）ページ29

気が付けば、会社を出てから随分と時が経っていた

「もうこんな時間だ…。俺、帰るわ。」

「うん。けど太輔…その前にトイレ行って顔洗って来い。そんな顔じゃ、ミツに心配されるぞ。」

渉に言われてトイレの鏡で自分の顔を見る

泣きはらした目

確かに、これじゃ宏光に怪しまれる

冷たい水で何度も顔を洗った

両手で頬を叩いて、鏡に向かって笑顔を作った

いつも通りだ…

俺達は何も変わらない

宏光の最期まで…ずっと変わらず笑顔でいよう

渉と別れて家に向かう途中、LINEを確認する

【遅くまで仕事お疲れさん。あんまり無理すんなよ。今日は太輔お気に入りの宏光特製チャーハンだ！早く帰って来い。待ってる！】

可愛いスタンプと一緒に送られた宏光の言葉に、また視界がぼやけた

早く宏光に会いたい…

アパートまでの距離を駈け出した

息を切らして玄関に入ると

「おかえりっ！」

可愛い笑顔の宏光がお迎え

堪らなくなってそのまま宏光を抱きしめた

「どうした？なんでそんなに息切らしてんの？しかも太輔汗だく(笑)」

「…宏光に1秒でも早く会いたくて、走って帰ってきた。」

「んふふ。俺に会いたかったの？チャーハンじゃなくて？」

悪戯っぽく笑う宏光

「チャーハンにも会いたい(笑)」

「んふふ。遅くまで頑張ったんだもんな。すぐ温めるから待ってて。」

腕をすり抜けようとする宏光を引き留め、感情を隠す様にキスをした

宏光はそんな俺のキスを受け止めて、優しく背中を抱きしめてくれた

けれど一瞬目が合っただけで

「会社で何かあった？」

宏光には全て分かってしまうみたい

「何もないよ…」

「…じゃあ…俺に何か隠し事してる？」

「…してないよ」

ぎこちない返事に、宏光が俺の顔を覗き込む

「………今日ホントに残業だった？」

「え…？」

「なんか…いい匂いする…」

俺の胸に顔を埋めてスーツをクンクンと匂ってる

「……すいません。ちょっとだけ渉とお茶しました…。」

「……浮気だな。」

「違うよっ！」

「違わないっ！！もう太輔のチャーハンは俺が食うっ！」

「えーーっ！ごめんって！」

すんって拗ねながらチャーハンを頬張ってる宏光を、失いたくないと本気で思う

「宏光…機嫌直して。宏光に嫌われたら…俺生きていけないよ…」

宏光を後ろから抱きしめて、溢れそうになる涙を必死に堪えた

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